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人をよく家に招くフランス人。毎回それは気合を入れて準備をするのかと思いきや、用意するのはどんな場合でも前菜・メイン・デザートのたった3皿。『フランス人は3皿でもてなす フランス流 しまつで温かい暮らし』の著者ペレ信子さんは「実は手抜き上手なんです」と言います。フランス人から学ぶ、“がんばらないもてなし”とは?

「ここは料理と見栄の発表会?」


日本の「おもてなし」といえば、セレブな人たちが、おしゃれなインテリアの家で、素敵な器を使ったテーブルコーディネートで、手のかかったご馳走をふるまうようなイメージです。言葉は悪いですが、それは、自分がこれだけのものを持っているという“発表会”です。
いずれにしても日本の「おもてなし」は、相手に“与える”ものです。
それにひきかえフランス人は人を家に呼ぶことは、「Recevoir(ルスボワール)」という動詞でフランス語では表します。英語でいう「Receive(レシーブ)」、と同じ。つまり“受け取る”のです。
人が家に来ることは、相手におもてなしを“与える”のではなく、自分が相手の大切な時間を“受け取っている”“いただいている”感覚です。

フランス人と日本人では、人を自分の家に招く感覚がまるで違います。
フランスでは、家に呼ばれたら、こちらも呼び返す習慣があります。「じゃあ、今度はうちに来て」となるべく早い時期に。そうやってお互いの家で食事をしながら、ゆっくりお喋りをすると、温かみのある人間関係が生まれます。それをフランス人はとても大切にするものです。

この違いがわからなくて、私も昔、失敗をしたことがあります。フランス料理を習い始めたばかりの頃です。フランス人を家に招いて、精一杯のご馳走でもてなしたつもりが、相手に言われてしまいました。「あなたをうちに呼べないわ」って。「こんなにおいしいお料理を出されたら、うちには呼べない」と言われて、私は愚かなことに、そのときは誉められたと思ってしまったのですが違いました。
「うちに呼べない」=心から仲良くはなれない、ということ。
フランス人は見栄を張ったり、自分をよく見せようとする“発表会”を求めているのではなく、本当にもっと仲良くなりたいから、うちに来てくれるんです。私がするべきことは、自分が頑張るのではなく、相手を“受け取る”ことだったのです。
 

フランス流がんばらない招待ルール

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食べる、飲む、会話を楽しむ――。これはフランス人が、人生においてもっとも大切にしていること。だからこそ、フランス人は人をよく家に招きます。その際のルールみたいなものがあるので、ご紹介しましょう。

1.初めて来る人には、食べ物を持ってきてもらわない
逆を言えば、初めて行く家に食べ物は持っていきません。呼んでくれた人がせっかく自分のためにメニューを組み立ててくれているのに、そのメニューとちぐはぐな食べ物を持っていくのは失礼(迷惑)だから。基本的にフランス人の家へ行くのに、手みやげは不要です。持っていったとしても、小さな花束程度です。

2.料理をがんばりすぎない
招く側が用意する料理は、前菜、メイン、デザートの3皿。本当にどんな場合でも3皿だけでいいんです。日本のように、食卓にたくさんの料理を並べることはなし。きちんとしたいときには、メインに時間のかかる煮込み料理を作ることもありますが、フランス人は人を呼ぶことを大げさに考えないんです。料理が得意ではない人は、前菜が缶詰のフォアグラだったり、メインが冷凍食品だったということもあって、そんな“おもてなし”でも全然OKです。文句を言う人は誰もいないし、陰で悪口を言ったりもしない。だからとても気楽です。

人生を彩る大切なコミュニケーション時間と考えれば、日本人もゲストを家に呼ぶハードルを下げたいものです。そのほかにフランス人らしい暗黙のルールは、

3.呼ばれたら、必ず呼び返す
4.カップルで参加する
5.12時過ぎまで続いたらパーティは成功


といったものがあります。
招かれたら、パートナーと一緒に出向くのがフランスでは一般的です。奥さんが誰かの家に呼ばれたら、旦那さんと行くのが普通です。これは私の実感ですが、男女が混ざったほうが会話は面白くなる! 女性ばかりでストレス発散をすると、どうしても「うちの子が……」みたいな日常的な話とか愚痴が出て、ネガティブなムードになりがちです。でもそこに男性が入ると、哲学的な話だったり、語学習得法であるとか、旅先での出来事とか、自然と広がりのある話題になります。
「人と楽しく過ごせる」ことが、フランス人にとっては本当に大事なことなんですね。そこには見栄や建て前や遠慮の入る余地がないのです。
 

気持ちがラクになるシックな手抜き


去年呼ばれたフランス人のお宅で、すごく印象に残る食事会を経験しました。
前菜は一応、フォアグラが出てきたのですが、よくスーパーで売っているような缶詰で、それに葉っぱをちぎっただけのサラダが添えてある。お料理してないんですよね。ところがお皿は、うちで言えば一番上等の銀縁のウェッジウッドのような、とてもエレガントなものなのです。白いテーブルクロスをかけた食卓で使うような、格上のお皿です。
カトラリーは銀製のクラシックなもの。そしてグラスが、とっても美しいクリスタルで、ひとりひとり形が違うんです。そばには背の低いお水用のゴブレットが置いてある。なんて可愛いテーブルコーディネート! 私は感心しきりでした。

前菜を食べ終わると、メインの煮込み料理のお鍋が運ばれてきたのですが、お客さんたちも心得たもの。前菜のお皿をパンでぬぐってきれいにして、そこにメインの鶏とキャベツの煮込みを盛り付けてもらいます。つまり、お料理のためのお皿は1枚だけなんです。でもそれがすごく上等なお皿だから、感じがいい。
人の家に呼ばれたときって「私たちが帰ったあと、お皿を洗うのが大変だろうな」と思ったりするけれど、ひとりにつきお皿1枚なら、お客さんに心配をさせなくてすみます。
グラスもそうです。シャンパン、白ワイン、赤ワイン用とテーブルにたくさんのグラスが並んでいるのは、最初は「わぁ!」と豪奢さに気分が上がりますが、そのうち、「洗うの、大変そう」って女性はどうしても思ってしまいます。それに中にはすごくたくさん飲む人もいれば、あまり飲まない人もいて、飲まない人は最初の白ワインのグラスがずっとあって、「このままで結構です」という感じでしょう? 食事が進むと次第に、グラスが乱立しているように見えてきます。

その点、そのおうちは最初から最後まで、クリスタルのグラスが1客だけでした。白を飲んで、次に赤を飲みたい人は、ゴブレットの水をグラスにちょっと入れて、ぐるぐるとまわして簡単にゆすぎ、その水を飲み干して、同じグラスに赤ワインを注いでもらう。「こういうのもいいな。むしろグラスをたくさん並べるほうがシックではないかも」と私は思ってしまいました。
あとで聞いたら、ひとつひとつ形の違うグラスは、アンティークショップで1客ずつ買い集めたのだそう。今はもう手に入らない昔のものです。だから、こっちのグラスは彫りがあったり、こっちのグラスは流線型だったり、ひとつひとつが絵になって、テーブルの華になっていたんですね。
カジュアルな食器をあれこれ持つのではなく、本当に良いものだけを使って、それで押し通す――。かっこいいです。自分のこだわりがある人はシックです。ちなみにその家のデザートは、気心の知れたお客さんたちが持ってきてくれたムース・オ・ショコラと焼き菓子。料理があまり得意ではないホステスは、ずっとお喋りをして、私たちをくつろがせてくれた。とても楽しい食事会でした。

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ペレ信子(ぺれ・のぶこ)

1967年東京生まれ。
21歳でブルゴーニュ大学に留学後フランス企業に4年間勤務し、1993年26歳でフランス人と結婚。結婚後は、夫の仕事の関係でアメリカに住んだ2年をのぞき、日本で暮らす。
通訳、翻訳の仕事の傍ら、3人の子供を育てながら、2004年よりダニエル・マルタンにフランス料理を、丸山洋子にテーブルコーディネートを学ぶ。ダニエル・マルタンの依頼で著書『鍋ひとつでできるお手軽フレンチ』(サンマーク出版)の翻訳を担当。
2011年より東京・目白台にてサロンをオープン。気取らないおもてなしと、簡単な料理や器選びのコツなどを提案し、人気に。また、キッチンリフォーム会社のショールームや、器店など店舗のコーディネートをしたり、雑誌で食に関連のコメントをするなど幅広く活躍中。https://recevoir.exblog.jp/

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『フランス人は3皿でもてなす フランス流 しまつで温かい暮らし』
ペレ信子 著 1400円(税別) 講談社

フランス人は、意外に質素で手抜き上手だった! 食やインテリアを通して、お金をかけずに生活が豊かになる暮らしの工夫を紹介。
著者はフランス人と結婚して23年。夫の家族やフランス人の友達から、フランス人のいいところを取り入れつつ、心地よい暮らしを模索し続けています。それは何も肩ひじ張るようなことではなく、気取りなく、そして案外質素なのに毎日が楽しく家族の幸せにつながるものでした。そんな暮らしを楽しむ工夫、食やインテリアを通して家族の絆が深まるちょっとしたコツ、簡単だけど少しだけ生活が豊かになる毎日の習慣を紹介します。

(この記事は2018年4月22日時点の情報です)
構成/ 白江亜古 撮影/嶋田礼奈(講談社)

 

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