『シンプルに生きる』の著者が提案、すでに持っているものに満足すること
質のよくないものを買うほど私は金持ちではない。
似たようなことわざは多くの言語において存在します。確かに、ウールのひざ掛けや天然素材の布地と、それを収めるのにぴったりな木製のチェスト、上質の革で作られた靴やバッグ……、品質のよいものは修理して長く使え、大量消費によるゴミや自然破壊といった環境汚染から私たちを守ります。
手工芸品は先祖代々の伝統を引き継ぎ、そこから作り手の知恵や誠意が伝わり心を養います。品質のよいものは、私たちの健康にも、生きる喜びにも貢献してくれるのです。
コンロに直接載せて沸かす昔ながらのイタリア製のコーヒーポット、日本のつげの櫛 、料理用スパチュラなどは、親から子どもへと代々引き継がれていくものです。このようなレトロなものたちが今日もなお愛用されているのは、それらが時代を経て選び抜かれたものである証なのです。
私が述べたい「レトロ」とはまさにこうしたことなのです。
つねに無理をして、より上の生活を追い求めていく駆け足人生をやめること。ブランドよりもずっと一緒にいたいデザイン、頑丈で便利、流行に左右されないものに囲まれて生活することなのです。たえず新製品を追い求めるのではなく、すでに持っているものに満足し、それらに愛着を持って暮らすこと。
自分の持ち物の数を一定に保ち、「私にはこれで充分」と納得することなのです。
ドミニック・ローホー
著述家。フランス生まれ。ソルボンヌ大学で修士号を取得し、イギリス、アメリカ、日本の大学で教鞭を取る。モノにとらわれず心豊かに暮らす「シンプルライフ」を自ら実践。それを本にまとめた『シンプルに生きる』(講談社+α文庫)が欧米、アジアでベストセラーに。他に『シンプルリスト』『「限りなく少なく」豊かに生きる』(ともに講談社)など著書多数。また禅や墨絵を通して日本の精神文化に理解が深いことでも知られる。
<新刊紹介>
『バック・トゥ・レトロ 私が選んだもので私は充分』
ドミニック・ローホー 著 原 秋子 訳 1200円(税抜) 講談社
自ら実践する「シンプルな生き方」を発信し、フランスをはじめ欧米やアジア各国で、著書が累計250万部を超えるベストセラーに。本書には、「今いる場所で幸せになるヒント」「より良い運命の軌道に乗る秘訣」が綴られています。ものや情報があふれ、競争が競争を呼ぶ世界に私たちはいます。豊かではあるけれど、心は昔より「軽く」なったとは思えません。だからレトロに注目したのです――過去のよい記憶として残っているものは、イコール、シンプルな生き方のお手本になります。持ちものから、人間関係、ネットの情報、そして心の整理まで、生きる喜びをより感じられる上質な暮らしのために、ドミニック・ローホーがアドバイスします。
構成・文/柳田啓輔 (編集部)
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