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『シンプルに生きる』お金だけで幸福は得られない

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私たちの時代におけるもっとも大きな変化は、恐らく金銭に対するメンタリティーではないでしょうか。
本来「繁栄」とは、人間に物質的な豊かさだけでなく、感性の喜びや、精神の落ち着きといった高い次元の感覚と、社会における義務感を与えるもののはずでした。ところが現代の「繁栄」は金銭にばかり権力を与え、私たちの良識を失わせているのです。

幸福のためにお金は必要、という考えは間違いではありません。でも決してこのお金だけで幸福を増やすことはできないのです。

 

私たちが忘れているのかもしれませんが、人生で最高のものは無償なのです。見習うべき先人の生き方、つまりできるかぎり消費を抑えた生活を少しでも取り入れることが、朗らかに生きるための最善の手段なのです。
地場産の白ワインよりもシャンパンのほうが高級ですよ、と教えられなかったら、案外その地元の小さなワイナリーで作られた白ワインを好んで飲む人のほうが多いかもしれません。

クリスチャン ルブタンの靴を買って、月末のクレジットの支払いに頭を悩ますよりも、ちょっとオシャレなスニーカーを選ぶほうが、より堅実な選択でしょう。何においても一度お金が関係してくると、本当の楽しみがもたらされなくなることを私たちは肝に銘じておくべきです。

質実にそしてユーモアを持ちつつ生きることは、資本主義においてははなはだ不利な、けれども新しい生き方になるでしょう。この生き方は優雅で心地よい満足感を与えてくれるものです。分不相応のことを求めない、これこそがリッチに生きる秘訣なのです。

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ドミニック・ローホー
著述家。フランス生まれ。ソルボンヌ大学で修士号を取得し、イギリス、アメリカ、日本の大学で教鞭を取る。モノにとらわれず心豊かに暮らす「シンプルライフ」を自ら実践。それを本にまとめた『シンプルに生きる』(講談社+α文庫)が欧米、アジアでベストセラーに。他に『シンプルリスト』「限りなく少なく」豊かに生きる』(ともに講談社)など著書多数。また禅や墨絵を通して日本の精神文化に理解が深いことでも知られる。

 

<新刊紹介>
『バック・トゥ・レトロ 私が選んだもので私は充分』

ドミニック・ローホー 著 原 秋子 訳 1200円(税抜) 講談社

自ら実践する「シンプルな生き方」を発信し、フランスをはじめ欧米やアジア各国で、著書が累計250万部を超えるベストセラーに。本書には、「今いる場所で幸せになるヒント」「より良い運命の軌道に乗る秘訣」が綴られています。ものや情報があふれ、競争が競争を呼ぶ世界に私たちはいます。豊かではあるけれど、心は昔より「軽く」なったとは思えません。だからレトロに注目したのです――過去のよい記憶として残っているものは、イコール、シンプルな生き方のお手本になります。持ちものから、人間関係、ネットの情報、そして心の整理まで、生きる喜びをより感じられる上質な暮らしのために、ドミニック・ローホーがアドバイスします。


構成・文/柳田啓輔 (編集部)