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『シンプルに生きる』頑張らなければいけないという強迫観念から脱するには?

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われわれのアイデンティティの喪失は、
自分自身との不一致が原因だ。
ニューテクノロジー、娯楽産業、
われわれの生活方式はばらばらで、
そのうえおおよそ内容のないものとの関係を優遇している。
そこでわれわれがなすべきことは、その関係のために
自分自身とのつながりを断ち、ただただスピーディに、
より効率よくものごとをこなすことになってしまった。

― ファブリス・ミダル、フランスの哲学者、
『まずは自分自身を助けなさい』より

ドイツの社会学者ハルトムート・ローザ氏は三重の加速という視点で現代の時間の構造を解いています。

 

それは技術的な加速、社会変化の加速、生活リズムの加速です。技術的な加速は、運輸、通信、生産分野におけるイノベーションの上昇リズム。社会変化の加速は、社会において現在進行中の加速。たとえば会社や仕事、家庭まで、安定した持続性がますます危ぶまれています。


最後に、生活リズムの加速は、現代人のメンタルを脅かすものです。「より多くのことをより短時間でしなくてはならない」という強迫から、現代人は「時間がない、時間に追われている」と感じているのです。

私たちには時間の節約になるはずの機械や技術があるにもかかわらず、以前の何倍も働いています。なかには始終休みなく働いている人たちもいるのです。どこに行っても、昼も夜も、バカンス中も。どうしてこのように加速していくのでしょうか。そうするように強制されているのでしょうか。加速の危険性は?
 
どうしたらもう少しペースを落とし、より人間的で、より「普通」の生活に戻せるのでしょうか。

あなたが一日中パソコン画面に向かって仕事をし、生身の現実からかけ離れた仕事に従事しているのなら、余暇には手作業の活動を見つけるとよいでしょう。何かを手作りし、その出来栄えを味わうことは、パソコン画面と向き合ってすごす人たちの多くが感じている空虚感を埋めてくれるでしょう。

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ドミニック・ローホー
著述家。フランス生まれ。ソルボンヌ大学で修士号を取得し、イギリス、アメリカ、日本の大学で教鞭を取る。モノにとらわれず心豊かに暮らす「シンプルライフ」を自ら実践。それを本にまとめた『シンプルに生きる』(講談社+α文庫)が欧米、アジアでベストセラーに。他に『シンプルリスト』「限りなく少なく」豊かに生きる』(ともに講談社)など著書多数。また禅や墨絵を通して日本の精神文化に理解が深いことでも知られる。

 

<新刊紹介>
『バック・トゥ・レトロ 私が選んだもので私は充分』

ドミニック・ローホー 著 原 秋子 訳 1200円(税抜) 講談社

自ら実践する「シンプルな生き方」を発信し、フランスをはじめ欧米やアジア各国で、著書が累計250万部を超えるベストセラーに。本書には、「今いる場所で幸せになるヒント」「より良い運命の軌道に乗る秘訣」が綴られています。ものや情報があふれ、競争が競争を呼ぶ世界に私たちはいます。豊かではあるけれど、心は昔より「軽く」なったとは思えません。だからレトロに注目したのです――過去のよい記憶として残っているものは、イコール、シンプルな生き方のお手本になります。持ちものから、人間関係、ネットの情報、そして心の整理まで、生きる喜びをより感じられる上質な暮らしのために、ドミニック・ローホーがアドバイスします。


構成・文/柳田啓輔 (編集部)