ファッションの世界に長年携わり、あらゆるおしゃれを実践してきた作家 光野桃さんと服飾ディレクター 岡本敬子さん。後編では、着まわしやTPO、天候に応じた装いといった誰もが気になるトピックについて、存分に語っていただきました。前回から続くファッションのプロならではの視点に、目からウロコが落ちるようなおしゃれのヒントを発見するはず。

ルールにとらわれず
もっと自由におしゃれを楽しもう

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(左)光野桃 作家・エッセイスト 東京生まれ。小池一子氏に師事した後、女性誌編集者を経て、イタリア・ミラノに在住。帰国後、文筆活動を始める。1994年のデビュー作、『おしゃれの視線』がベストセラーに。 主な著書に『おしゃれのベーシック』(文春文庫)、『実りの庭』(文藝春秋)、『感じるからだ』(だいわ文庫)、 『あなたは欠けた月ではない』(文化出版局)、『森へ行く日』(山と渓谷社)、 『おしゃれの幸福論』(KADOKAWA)、『自由を着る』(KADOKAWA)。今年刊行された『白いシャツは白髪になるまで待って』(幻冬舎)も絶好調。公式サイト桃の庭InstagramFacebookファンサイト
(右)岡本敬子 アタッシェ・ド・プレス、「KO」ディレクター。文化服装学院スタイリスト科卒業後、スタイリストオフィスに入社。その後、大手アパレル会社のPR部門にて国内外のブランドのPRを担当。独立し、アタッシュ・ド・プレスとして複数のブランドを担当しながら、2010年に自身のブランド「KO」を立ち上げている。現在はnanadecorにて「KO」ラインを、千駄ヶ谷のショップ「Pili」のディレクションも手がける。instagram:@kamisan_sun


光:敬子さんは先日、『好きな服を自由に着る』という本を出版されたばかりですが、そこには日々の着こなしがバリエーション豊かに掲載されています。本の中でも『同じスタイリングはしたくない』と仰っていますが、本当に365日まったく違うコーディネートをされているんですって?

岡:そうなんです。もちろん同じアイテムを着ることはよくあるんですが、同じ組み合わせをしたことがないんです。旅先で時々、自分のスタイリングをカメラで撮影していたんですが、帰国後に写真を見直したときにそのことに気が付いて。それがきっかけで先の本を作ることにもなりました。いかにアイテムどうしの新しい組み合わせを発見するかが楽しくて。もうスタイリング癖がついてしまっているんですよ(笑)。

光:敬子さんの場合は、一つのアイテムを何通りに着るといっても“着まわし”をしているわけではないんですよね。

岡:はい。いわゆる“着まわし”とはちょっと概念が違うと思います。

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20代後半で鎌倉に引っ越してから、東京で着ていた服が古い町並みにマッチしていないと気付いた岡本さん。湿度や海の潮で、手持ちのファーやレザーアイテムが軒並み劣化してしまったこともあり、それまでのワードローブを一気に処分。着心地のいいコットンやリネン、シルクといった天然素材のものに総入れ替えしたのだとか。「環境に合わせて装いを変えるというのは大事なこと。それによって、今まで手に取らなかった服が似合うようになることもあるし、新たな発見ができるとまた楽しいんですよね」と光野さん。

光:服を買うときに、『このジャケットにもあのトップスにも合う』とか『合わせるボトムを選ばない』とかいう視点で選ぶ人は多いと思うの。みんな“着まわしの呪い”にかかっているから(笑)。でも、敬子さんはそういう選び方をしていない。

岡:ええ。着まわしを考えて服を買っているわけではなく、好きかどうか、心地いいかどうかで選んでいますから。そして、それを使っていかに未知のスタイリングを作るかということに重きを置いているので、アイテムどうしがファッションのセオリー的にマッチしていなくても全然構わないし、人にどう見られていようと気にならないんです。むしろ私のスタイルに違和感を感じているような目で見られると、ゾクゾクするというか(笑)。

光:敬子さんには、おしゃれに対する窮屈なルールがないんですよね。それとは対照的な話なんですが、以前、私の本のなかで“服とバッグの色やテイストを揃えなくてもいい。私の場合、バッグは軽いことが重要なので、お気に入りのカゴをどんなスタイルにも合わせている”というような内容のコラムを書いたら、それがその本のなかで一番人気だったことがあったんです。そのときに、読者の方々から『服とバッグをリンクさせなくていいんですね。本当に好きなバッグを持っていいんですね』と何度も聞かれたんですね。皆さん、それだけ着こなしのルールというものに縛られているのかと驚いたわ。もちろん、いいに決まっているじゃないって(笑)。おしゃれに悩む方々がそういった縛りからもっと解放されていくといいんだけれど。

岡:そうですね。そもそもファッションに正解なんていうものはないですし、おしゃれって本来はもっと楽しいもののはず。そう感じられない場合には、考え方なのか何なのかは分からないけれど、どこかにズレがあると思った方がいい。おしゃれも人生も楽しまないともったいないですよね。

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『イタリアでは、ジュエリーをまとって華やかに装うのはシニョーラ=マダムになってから。大人の女性こそもっとおしゃれを楽しんでほしい』という光野さんのシャツの胸元からは、バロックパールの輝きがちらり。モノトーンの装いに品よくマッチさせながら華を演出するという、ジュエリー使いの巧みさはさすが。
 
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