大河ドラマ『おんな城主 直虎』では自由を愛し続けた龍雲丸を、『銀魂』シリーズではくわえ煙草の真選組「鬼の副長」土方十四郎を、『ディストラクション・ベイビーズ』では暴力そのものを具現化したような男・泰良を、それぞれ強烈な魅力とインパクトで演じた俳優・柳楽優弥さん。主演最新作『夜明け』ではそうしたイメージから一転、自分以外の社会と上手くつながることができない、普通の青年シンイチを演じています。
「キャラクターっぽい役を演じている時は、こういう取材も含めて普段から演じてしまい、自然じゃないなと感じます。この作品のインタビューでは、わりと素に近い感じで答えられているかなと。多分、自分にとってはそのほうがいいんですよね」
取材で見せたその素顔とは、いったいどんなものでしょうか。

 

柳楽優弥 1990年、東京都生まれ。『誰も知らない』(04年/監督:是枝裕和)にてカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を史上最年少(当時14歳)で日本人初の受賞。以降『包帯クラブ』(07年/監督・堤幸彦)、『許されざる者』(13年/監督:李相日)、『クローズEXPLODE』(14年/監督:豊田利晃)、『最後の命』(14年/監督:松本准平)、『合葬』(15年/監督:小林達夫)、『銀魂』(17年/監督:福田雄一)などに出演。『ディストラクション・ベイビーズ』(16年/監督:真利子哲也)でキネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、ヨコハマ映画祭主演男優賞を受賞。2012年、蜷川幸雄演出の舞台「海辺のカフカ」、14年には宮本亜門演出の舞台「金閣寺」で主演を務め、「アオイホノオ」(14年/テレビ東京)で連続ドラマ初主演。「ゆとりですがなにか」(16年/日本テレビ)、大河ドラマ「おんな城主 直虎」(17年/NHK)など活躍の場を広げる。最近の出演作に『銀魂2 掟は破るためにこそある』(18年/監督:福田雄一)、『響-HIBIKI-』(18年/監督:月川翔)、『散り椿』(18年/監督:木村大作)など。公開待機作に『泣くな赤鬼』(19年/監督:兼重淳)、『ザ・ファブル』(19年/監督:江口カン)がある。


『夜明け』は、ある田舎町で行き倒れていた、正体不明の青年シンイチの物語。一人暮らしの中年男哲郎に助けられた彼は、その家に同居するようになり、やがて哲郎が営む木工所で働くようになります。柳楽さんが演じているせいか、「何かのきっかけで豹変するのでは……」と不安になるのですが、「ある事情」を除けばいたって普通の青年です。

「ここ最近、キャラクターの立った役が多く、割と初期の頃に多かった普通の役があまりなかったので、原点回帰と言うか。“普通の人間”の説得力みたいなものを出さないといけないなと思い、大袈裟に見えないよう、表情とか、セリフのない部分を意識しました。ただ監督からは“繊細だけれど、なんか妙な生命力がある”と言われていたし、僕が演じるからには生命力を出さないとな、と(笑)」

デビュー作の是枝裕和監督、その弟子筋に当たる本作の広瀬奈々子監督と初めて会った時に思ったのは、「新しい引き出しを作ってもらえそう」だということ。その予想はまさに的中で、スクリーンにはこれまで見たことのない柳楽さんがいます。周囲との距離感を計りかねるシンイチはいつもどこかおどおどとしていて、誰かが一歩踏み込んで来んできた時に見せる悲しいような困ったような表情は、特に印象的です。

「以前にやった『ディストラクション・ベイビーズ』もそうでしたが、人間が抱えている、言葉ではっきりと言い表せないものが描かれた作品だと思います。100人が100人“面白い!”と思うマーベル映画みたいな作品とは違いますが、なにか心にひっかかるものがある、こういう作品も大好きなんですよね。映画を見てもらうために、そのあたりを僕も考えたし、監督のビジョンを探り探りしながら、今回はすごく話をしました」
 

期待に応えたくて“エラー”を繰り返し、心が折れそうに


そうする中で柳楽さんが探り当てたシンイチへの共感は、と聞けば、「重い期待を背負う苦しさ」。そして「今はそういうわけじゃないんですが、自分にもそういう時期があって」と、ちょっと照れくさそうに付け加えます。大学は出たものの就職に失敗したシンイチは、父親の期待通りに優秀な兄と比べられて生きてきた青年。その何とも言えない思いは、史上最年少の14歳でカンヌ映画祭で主演男優賞を獲得した後の、柳楽さん自身に通じるものがあったようです。

「真っ暗なトンネルの中で出口が見えずにもがいている――そういう時ってありません?僕は、どうやったら演技が上手くなるのかとか、ずーっと考えていました。不器用だから、わかっていてもなかなかできない、期待に応えたいのに上手く応えられない。すべてが自由な状況を、逆に不自由だと感じたり……。僕は自分のことは大げさに考えてしまいがちで、冷静に考えれば違うってわかることでも、“自分だけがそうなんじゃないか”と思ってしまったりもしました。でもそこから抜け出すことも自分にしかできないし」

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以前、2008年ごろにインタビューした時に覚えた印象と、ずいぶん変わった気がしますと伝えると、「そういう時期だったのかもしれない」と柳楽さん。でもこの世界で生きていかなきゃいけないし、生きていきたい――そういう思いに支えられ「自分はこうしよう」と築き上げていた時期だったと語ります。

「結局、真面目に頑張ろうっていうところに行きついたんですよね。周りのちゃんとした人を見習って、トライ&エラーを繰り返して。最初はエラーばっかりなんですよ。千回、いやそれどころじゃなく……って自信満々に言うことじゃないけど(笑)。でもいろんな出会いを通じて、方法を探していったというのはあります。僕は柄本明さんが本当に大好きなんですが、『許されざる者』では実際にお世話になりました。もちろんその作品の李相日監督や、初舞台『海辺のカフカ』で出会った蜷川幸雄さん、プライベートで始めた茶道と武道の先生との出会いも。一時はエラーばっかりで心折れそうになりましたけど、いまこういう作品に参加できているので、無駄ではなかったのかなって」


混乱しながらも前進するシンイチに、きっと希望が見えるはず


今やその人気と実力は誰もが認めるところ。そして彼の世代の俳優では比肩する者のいない強い存在感は、もしかしたらそうした「真っ暗なトンネル」を歩いてきた証かもしれません。
「国際的な作品に出たいので、英語もゆっくりとですが勉強しています。仕事が来るかは別として、準備はできてるっていう状態にしたくて。タランティーノ監督の作品とか、出たいですよねえ(笑)。でも、そうはいっても一番は日本のいい監督と映画を作ること。30代は日本で主演作増やして、ゆくゆくは海外作品で脇役を……って取材でこんなこと言ったら、後輩とかに“こいつこんなこと考えてるのか”って思われそう(笑)」

「素」の柳楽さんはそう言いながら、再び、少し照れたように笑います。スクリーンの中の大胆な演技からは想像ができませんが、実はものすごく「緊張しい」でもあるんだとか。舞台に立つ前などはあまりの緊張でカチカチになっているので、共演の先輩に「優弥を見てると、自分の緊張が落ち着く」と言われるそうです。サスペンスを孕みながらも明らかになってゆくシンイチの人生、そしてそこから抜け出そうとする姿を見ることには、同じような効果があるかもしれないと、柳楽さんは言います。

 

「この映画が描くシンイチの混乱が、同じように混乱している人に寄り添えるものになっていたらいいなと。分かりやすく言葉で言われるより、シンイチの生々しい体験が響く瞬間にいる人もいると思うし、そういう方が見てくれたらと思います。頭の整理がつかない時に、映画館で2時間、シンイチと過ごしてもらって――もっと整理がつかなくなったりして(笑)。でもそれでもいい気がするんですよね。真っ暗なトンネルの中で人生を諦めかけたシンイチが、それでも人生を前進していく。その姿に希望をもってもらえるんじゃないかなと思います」

<映画紹介>
『夜明け』

©︎2019「夜明け」製作委員会

ある日、河辺を歩いていた初老の哲郎(小林薫)は、水際に倒れていた1人の青年(柳楽優弥)を見つける。哲郎の自宅で介抱された青年は自ら「シンイチ」と名乗った。哲郎とシンイチはしだいに心を通わせるようになるが、シンイチは本名を明かすことができないある秘密を抱えていて……。
是枝裕和監督、西川美和監督のもとで長年監督助手を務めた広瀬奈々子の監督デビュー作。広瀬監督が脚本を書き下ろしたオリジナル作品。
2019年1月18日より東京・新宿ピカデリーほか全国で公開。

監督・脚本:広瀬奈々子
出演:柳楽優弥 YOUNG DAIS 鈴木常吉 堀内敬子 小林薫
配給:マジックアワー
©︎2019「夜明け」製作委員会

 

【問い合わせ先】
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リーバイ・ストラウス ジャパン tel. 0120-099-501


撮影/塚田亮平
ヘア&メイク/佐鳥麻子
スタイリスト/池田尚輝
取材・文/渥美志保 構成/川端里恵