幼いときに大切な人を亡くしたトラウマは、簡単には消えないものです。7年前に夫である流通ジャーナリストの金子哲雄氏を亡くし、現在、終活ジャーナリストとして活動されている金子稚子さんが「グリーフ」の感情との向き合い方についてお話してくれました。

電話番さんからの質問

Q. 中学生のときの父の急逝にトラウマがあり、いざ交際となると逃げてしまいます。


家族、親戚との仲も良く、楽しい幼少期でしたが、父の急逝で生活が一変。父の遺した遺産や事業、父が面倒をみるはずだった祖父母の介護問題で親戚と争い、母が責められるのを目の当たりにしてきました。40歳という若さで、志半ばで亡くなった父も、一人で私たちを育ててくれた母も、怒りを母にぶつけるしかなかった親戚も、みんな不幸でした。私は父が亡くなる直前、疲れていた父に「パソコンの使い方を教えて」とせがんだ自分を責めました。あの時休ませてあげていたら今も父は生きていたかもしれない……。もうあまり覚えていませんが、様々な葛藤を抱えながらも怒涛の毎日を何とかやり過ごしてきました。

しかし最近、自分の心だけがあの頃に取り残されたままのような気がしています。温かい家庭を築きたい願望があり、友達も多く子どもも好きなのですが、いざ交際という段階になるとうまく笑えず、とにかく離れたいと一方的にさよならしてしまいます。父との突然の別れがトラウマになっているのか、父のことや結婚のことを考えると、涙が抑えられなくなることもあります。現在、幸いにも経済的に自立できており、結婚や恋愛がからまなければ精神も安定しており、このまま一人で生きていくことも可能だと思います。カウンセリングなどを受けたら、少しは楽になるのでしょうか? 個人的な悩みですみませんが、ご回答いただけると嬉しいです。(32歳)


終活ジャーナリスト 金子稚子さんの回答

A. 多くの人は大切な人を失ったときに受ける影響というものをあまり知らないのです。

私は決して専門家ではありませんが、電話番さんにはグリーフケアが必要ではないかと感じました。「グリーフ」とは直訳すると、悲嘆とか、深い悲しみ、といった意味になります。ですがもっと広く、喪失によって起こるコントロール不能な精神的・身体的状態を指していて、それは悲しみだけでなく表に出ない感情、体調の不良などありとあらゆるものが対象となります。つまりそれくらい、大切な人を失うというのは心身に強い影響があるということです。

ですからまず電話番さんにとって大事なのは、「父親という大切な人を失っているのだから、今の自分に起こっていることは人間として当たり前の反応である」と、自分のことをしっかり受け止めることだと思います。多くの人は、大切な人が亡くなったときに受ける影響というものを、実はよく知らないのです。そうして、「時が解決してくれるよ」などと周りから言われるので「そうかな」と思ってしまう。でも亡くなった人と自分との関係は、あくまで1対1。自分にしか分からないものですし、時間が経ったからといって消えていくものではないのです。

たとえ幼い頃の出来事で記憶になかったとしても、ずいぶん経ってから影響が出てくることもあります。なぜなら周囲の人たちが死別による影響を受けていて、それがアナタにも伝わるからです。ですから、「自分だけがいつまでも引きずっている」などと、どうか自分を責めないでください。

 
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