「詰め込み教育で創造性が育たない」、「学校が楽しくない」など、欧米教育と比較して何かと批判されがちな日本の教育。しかし当たり前ですが、日本の教育にも良い面がたくさんあれば、欧米教育だって決して完璧というわけではありません。京都大学大学院准教授のジェルミー・ラプリーさん、国立台湾大学准教授の小松光さんは「45歳から54歳までの学力は世界一で、日本の授業は海外からも高く評価されている。新しい教育法を無批判に取り入れるのではなく、教育現場の現実から学ぶべき」と言います。お二人の共著から今一度考えてみませんか?

 

データから見えてきた日本の教育はダメじゃない現実


日本の教育においては、「知識がない」「想像力がない」「問題解決ができない」「昔に比べて学力が低下している」など、多くの否定的な通説があります。これらについて小松光氏は、PISA(15歳時点の世界の子供の学力を調査するテスト)やTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)などのデータを検証し、著書内にて次のような見解を述べています。

①日本の子どもたちは、基本的な知識という点では世界トップクラスである。
②知識を創造的に使うという点でも、数学と理科については、世界トップクラスである。ただし読解については数学や理科より劣り、先進国の平均的なレベルである。
③創造性を現実的な問題解決に活かす能力は、世界トップクラスである。
④学力格差に関して、基本的な事項を理解していない子どもは少ない。ただし、学力には社会階層の影響が認められ、他の先進国と同程度に不公平な社会である。
⑤大人になったときの能力は、世界トップクラスである。
⑥学力の一貫した低下傾向は認められない。

『直近のピザ(2018年)の結果で、日本の読解の成績が良くなかったことが、メディアなどで随分取り上げられました。ピザの読解の成績が良くないということは、日本の子どもたちは、ピザの問題に出てくるような文章を読むのが上手でないということではあります。しかし、その結果があらゆる意味で、文章を読む能力が低いということかどうかはわかりません。というのも、文章というのは文化によって相当異なるからです。さらには、文章の読み方もまた文化によって異なることが知られています。

もしかしたら文化の違いが、東アジア諸国の読解の成績に影響しているのかもしれません。(一部略)東アジア諸国は、数学や理科の成績ほどには読解の成績は良くありませんでした。これは、ピザのテストが欧米諸国の基準をもとに作られており、東アジア諸国の文化に完全には合致しないからかもしれません。ということは、ピザの成績をどのように受け取るかは、各国が「どのような社会を作りたいか」という問いと関連させて議論しなければならないということです。

つまり、東アジア諸国の一員として生きていくなら、あまりピザの読解のテスト結果を深刻に受け止める必要はないかもしれません。逆に、欧米諸国は今でも世界の重要な位置を占めており、欧米諸国の基準のもとでも日本は高いパフォーマンスを示さなければならないと考えるなら、ピザの数学や理科だけでなく、読解のテストでも良い成績を追求すべきかもしれません。』

また、「勉強のし過ぎ」「高い学力は塾通いのおかげ」「自分に自信が持てない」「いじめ・不登校・自殺が多い」「不健康」といった、“教育の代償”に関する通説も多くあります。この点についても、小松氏は著書の中で次のように結論を述べています。

①国際的に見ると勉強時間が少なめである。
②受験やテストに対して感じるプレッシャーの程度は、国際的に見ると普通である。
③高い学力を塾通いから説明するのは難しい。
④高い学力は、むしろ、子どもたちの学習に対する考え方や、先生方の授業のやり方によるかもしれない。
⑤勉強に興味をあまり持っていないが、これは「学び」のために必要なことかもしれない。
⑥自分の能力にほとんど自信を持っていないが、そのことが高い学力を支えているのかもしれない。
⑦国際的に見ると、学校が楽しいと感じている子が多い。
⑧いじめは国際的に見ると少なく、不登校も学業の修了という観点からは欧米のドロップアウトの問題よりは相対的に軽微である。
⑨10代の自殺率は国際的に見て中程度である。
⑩肥満の割合という観点からは、非常に健康である。

一般に何となく信じられているところでは、「日本の子どもたちは学校の勉強はできるけれども、あまり幸せな学校生活を送っていない」はずです。ところが、データはそうは言っていないのです。

 
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