友人や仕事仲間を「イドコロ」にするには?

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一緒にいても心休まらないのになぜか友人と呼んでいる存在はいませんか? 伊藤さんは進化生物学者ロビン・ダンバー氏の調査結果を引き合いに、友人の条件として6項目を挙げています。友人と呼んでいる人がちゃんとイドコロとして機能する「真の友人」なのかどうかは、こちらを基準に判断すると良いでしょう。

 

「その6つとは、①共通の言語、②共通の出身地、③似通った学歴、④共通の興味や趣味、⑤共通の世界観(似通った政治観、宗教/道徳観)、⑥共通のユーモア感覚、である。これらのうちの2つより多い数を共有していると友情が生まれ、数が多ければ強まるという。この説にしたがえば全く共通しているものがなければ親近感を持てない、ということになる」

友人よりも接触機会の多い仕事仲間のほうにイドコロを感じている人はどうでしょう? 伊藤さんは仕事仲間をイドコロと感じるためには次のような条件が必要だと言っています。

「出世争いがないこと、身分による発言の正当性に差がつかないこと(平社員でも意見が妥当なら採用される風土)、人間関係ではなくて具体的な対象物に意識を向けられる文化、現場とマネジメントが解離しないことの4点である」

伊藤さんは、イドコロを有象無象の情報のせいで錯乱した人が正常に戻れる空間と位置づけていますが、イドコロが情報をシャットアウトするから正常に戻れる、ということでもないようです。最後に、伊藤さんは乱世における正気の保ち方とイドコロの正しい使い方をこのように示唆しています。

「(正気を保つことは)自分の考えを揺るがす雑多な外部に触れ、自分の思考を揺さぶりながらも、呑み込まれず変化し、凝り固まらないことである。この矛盾を伴う両立には各種のイドコロ群で思考の免疫系を働かせることが大事で、人間にはそれができる。情報が錯綜し、迷走しやすい乱世だからこそ、このことを自覚し手入れしていきたい。個人としても自分のイドコロの整備と手入れをすることはいいことだし、社会全体のことを考えても各所に多くの人の手の届くイドコロを散らばらせていこう。社会にイドコロが充実すれば、それは誰でも活用できる共有資源が増え、より丈夫な世の中になることだろうと思う」
 

著者プロフィール
伊藤洋志さん:
1979年生まれ。香川県丸亀市出身。京都大学にて農学・森林科学を専攻し修士号(農学)取得後、零細企業の創業に従事し肌荒れで退職。以後、養生期間を経て自営業。頭と体が丈夫になってついでに公正な社会環境づくりにつながる、大資本を必要としない仕事と活動をナリワイ(生業)と定義し研究と実践に取り組む。実践したナリワイは衣食住・教育・娯楽と分野を超えて10個超。半農家を増やす「遊撃農家」、床を通じて住の自給力を高める「全国床張り協会」、エネルギー自給が基本の環境調和生活を遊牧民に見習う「モンゴル武者修行」、ユーザーとつくる野良着メーカー「SAGYO」などが代表的なナリワイ。本書は、活動の土台となる思考の健康さを保つ様々な場とその働きを「思考の免疫系」として構想したものである。教育活動として静岡県立大学「キャリア形成概論」講師、丸亀市リノベーションまちづくり構想検討会議副委員長など大学のキャリア教育や各地の起業プログラム講師を務める。著書に『ナリワイをつくる』、共著に『フルサトをつくる』(ともに東京書籍、後にちくま文庫)がある。

仕事づくりレーベル「ナリワイ」:https://nariwaibook.tumblr.com/

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『イドコロをつくる:乱世で正気を失わないための暮らし方』
著者:伊藤洋志 東京書籍 1650円(税込)

縁側を自作する、近所の公園を使いこなす、銭湯に行く、行きつけのお店を大事にする、など。思考の健康さを保てる場とその働きを研究してきた著者が、有象無象の情報に左右されがちな現代社会において正気を保つことができる場所=「イドコロ」を持つことの重要性をレクチャー。「イドコロ」の種類とつくり方を多く紹介している本書は、コロナ禍で人と会うことがままならない今を健全に生き抜くヒントになるでしょう。



構成/さくま健太