価値観の世代間ギャップ!?
「ズボンのチャックがこわれたから、修理に出して」
「去年も修理したよね。もう3年目だし、そろそろ買いかえたら?」
「修理すればまだ使えるよ」
「でも修理代もバカにならないし⋯⋯」
新品より修理を選んだ中学生の息子と、何ごともお金の勘定で考える私の最近の会話です。あたらしいズボンをスマホで検索している間に、息子は自転車でズボンをリフォーム店へ持ち込んでいました。
これってもしかして、価値観の世代間ギャップ⋯⋯?
そんな折、捨てられていく服を守るため「古着の物々交換」を通じて衣料ロス削減に貢献している三和沙友里さん(24歳)の噂を聞きつけました。Z世代とミモレ世代の価値観のちがいを探るべく、〔ミモレ編集室〕の“Naby”がお話を伺います。
energy closet代表 三和 沙友里さん
1996年生まれ、千葉県出身。自分のお金で洋服を買うようになった大学生のころからエシカルファッションに興味をもつ。2019年、『energy closet』を立ち上げ、エシカルファッションを軸にした活動を行なっている。
新品の方がいいと思ったことがない
energy closetは“服を売らない”アパレルブランド。店舗を持たず、ポップアップイベント『CLOSETtoCLOSET』を月1回開催しています。支払いが発生するのは、事前に購入する3000円の参加チケットのみ。イベント当日に不要となった洋服を3着会場に持参したら、会場の古着から好きな3着を無料で持ち帰れます。
CLOSETtoCLOSETでは、あたらしい服を販売するのではなく、着なくなった服と服を物々交換するアイディアが新鮮ですね。実を言うと私は古着への抵抗があるのですが、三和さんは、抵抗感はないんでしょうか。
「抵抗はまったくないですね。それこそやぶれている服でも着たいと思います(笑)。服が人の手から手へとわたるほど、その服に関わった人たちや地球のエネルギーを強く感じます。だから古いお洋服が好きなんです 。新品の方がいいと思ったことはないですね。服が好きすぎて、着られていない服や捨てられていく服が気になってしまいます」
なんと! 「古ければ古いほど、好き」とは、服はあたらしい方が良いと思い込んでた先入観が揺さぶられます。三和さん、捨てられる服が気になったきっかけはなんですか。
「過去のトレンドや文化の積み重ねの上に、今の服が出来上がっているのを知りました。最新トレンドの服だけがおしゃれなのではなく、古い服にも同じように価値があると感じたんです」
オンラインインタビュー当日は、華奢な身体になじむ古着ファッションと大ぶりメガネで登場した三和さん。モニター越しにも、おしゃれ上級者の雰囲気がただよいます。ゆっくりとお話しされる声は可憐で、「場がないなら自分で作る」というバイタリティとのギャップが印象的でした。
クローゼットの循環の場を、古着販売でなく物々交換にしたのはなぜでしょう?
「古着を売って換金する方法は、『安くなるから売らないでおこう』とかお金のバイアスが入ってしまい、ファッションを楽しむ上でベストではないと感じます。だから服に値段をつけていません」
トレンドではなく、自分にしっくりくるものを選ぶ
これまで大量生産・大量廃棄が当たり前だったアパレル業界。環境負荷は大きく、低価格の衣料を供給するため、現地の生産者は過酷な労働を強いられている現実があります。おしゃれを楽しむ上でもエシカルであることはさけて通れません。三和さんにとっての、エシカルファッションとは何ですか。
「エシカルというと生産者を大切にしようという話になりがちですが、そのために我慢して、飽きても同じ服を着続けるというのは違和感があって。消費者がもっと服をたくさん楽しんで、たくさん愛すること、着なくなった服を次の人に届けるよう循環させることが、エシカルだと思います」
おしゃれを我慢せずエシカルにファッションを楽しむ秘訣は?
「ファッションというと洋服そのものやコーデばかりに焦点があたりますが、自分の周囲を見ていると、クローゼットのアイテムに合わなかったので服が活かせないことがよくあります。もっとクローゼットに着目して、今の気分に合わないアイテムは着たいと思ってくれる人に届け、代わりに今の自分に合った服を迎えられれば、自分らしいクローゼットを保てると思ったんです。クローゼットを循環させる場がないなら作ろうと思って、CLOSETtoCLOSETを始めました」
クローゼットがお気に入りの服だけになれば、私たちのファッションへの価値観や行動がどのように変わると思われますか。
「みんな着てるから、トレンドだから着るのではなく、今の自分にしっくりくるからこの服を選んだと思えれば、自信も持てるし、1日楽しく過ごせますよね。服を選ぶことで自分らしさやアイデンティティを表現できるようになれば、ファッションが好きというレベルを超えて、日常の豊かさが変わってくるんじゃないかなって思います」
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