時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。

「オーストラリアは物価高だけど賃金も高い」変わらない日本の低賃金に思うこと_img0

値上げの春です。私はこのほどようやく2年2ヶ月ぶりにオーストラリアのパースで生活する家族と会うことができましたが、いつも使っている航空会社がまだフライトを再開しておらず、遥かに割高な他社を使わざるを得ませんでした。もともと日本よりも物価の高いオーストラリア。8年前に引っ越してからずっと節約を心がけてきたけれど、この物価高と為替の変動で、一層家計を引き締めねばなりません。

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たとえば日本ではコンビニや自販機で気軽に買えるボトル入り飲料。パースでは600mlの水やジュースが1本3〜4ドル(1豪ドル90円換算で270〜360円相当)もします。とても買う気になれません。環境負荷も考えて、息子たちはいつも水の入った水筒を持参しています。

 

農業大国オーストラリアは地産地消マインドが高く、野菜や肉・魚は地元の物を買うことが奨励されています。近所のスーパーにも、西オーストラリア産のマークのついたものがたくさん並んでいます。食材は1キロ単位で値段がついているので、100グラムあたりで計算すると、ものによっては東京の都心部よりも安い食材も。巨大なブロッコリーや太くて長いきゅうりは、一つ当たりの値段は高いけど、食べ切るのに何日もかかるので元がとれます。牛乳は安くて、3リットル入りボトルで4.69ドル(同422円)。割高なのは加工食品です。

お手軽でおいしい冷凍餃子はオーストラリアでも大人気で、色々な種類があります。先日行ったスーパーでは大体30〜35個ぐらい入ったものが7〜17豪ドル(同630〜1530円)で、売り場で「たか!」と叫んでしまいました。冷凍チャーハンは400グラムで8.5ドル(同765円)もします。

オーストラリアの消費税は、税率10%です。でも生鮮食料品や生理用品など生活必需品は非課税。これはとてもありがたい。黄色い特売札の付いているものを買うようにしても、先日は一家4人1週間分で品数47品で242.3ドル(同21807円)かかりました。そのうち課税対象は、冷凍チャーハン(美味しいのでつい)、浄水ボトルの替えフィルター、スナック菓子、日用雑貨など11品目。支払った消費税は合計5.2ドル(同468円)でした。今回は、2個で28ドルもする浄水フィルターが痛かった⋯⋯ 。
ちなみにうちはオーストラリア産のお米を食べています。この日は特売で5キロ入りの袋が一つ8ドル(同720円)になっており、最後の二袋をゲットして大満足。10代の食べ盛りの息子が二人いるので、引っ越してきたばかりの頃よりも食費がかかってしまうのは仕方ないですね。

そして悪夢のように高いのは外食代です。その辺のカフェでコーヒーとパンを食べたら、確実に1000円以上します。ファストフードでも、すぐに1000円以上。恐ろしい。

オーストラリアでは、人口2600万人ほどが、広大な国土に散らばる都市部に集中して暮らしています。都市から都市へ物を輸送するコストがかかる上に、賃金が高いので、価格に含まれる人件費も高いのです。OECD加盟国の2020年の実質最低賃金ランキングで見ると、日本は時給7.9米ドルで、データのある32カ国中14位、オーストラリアは12.4米ドルで1位です。試しに求人サイト(au.indeed.com)でオーストラリアのマクドナルドの時給を検索すると、平均で24.22豪ドル(約2180円)とあります。


まだ20歳以下のため、低めのレートで支給されている大学生の長男のアルバイトの時給も、聞くとびっくりするような額です。でもそれがあらゆるものの価格に転嫁されているわけですから、工夫しないと出ていくものも多い。

週末に友達とクラブに行ってちょっと酔う程度にお酒を飲み(オーストラリアは18歳から成人で飲酒も可)、往復にUberを使ったら(パースは東京のように電車やバスの便がよくない)日本円で2万円近い出費になることを痛い思いをして学んで、最近息子は飲むなら友達の家にしたり、街に行くときはお酒なしにするようになりました(当然だわな)。

そんなパースなのでうちはなるべく外食をしないことにしているのですが、先日の週末、長男が友達のうちにご飯を食べに行っている時に、高校生の次男くんがメキシカンを食べたいと言うので奮発してUber Eatsで注文することにしました。次男のお気に入りは、野菜とチキンのブリトー。かなりボリュームがあり、直径7センチ、長さ20センチぐらいの大きさです。それが、一人21ドル(同1890円)。49年生きてきて、そんな高いブリトーは初めて見たよ……次男と私で一つずつ注文して、夫はブリトーの中身だけお皿に入ったものとナチョスを注文し、食べ物代だけで税込70.4ドル(同6336円)。お店のサービス料4ドル(同360円)、配達料が3.99ドル(同359円)を加えて、合計78.39ドル(同7055円)の出費となりました。美味しかったけど、高すぎない? 納得できずに日本の同じようなサイトを見てみたら、大体ブリトー1本で1000円前後からありました。

外資系企業の高い賃金をもらって日本で生活する人は、高品質のものがなんでも驚くほど安いのでとても暮らしやすいと聞いたことがあります。パースから東京に転勤した人も、きっと同じように思うでしょう。

通常、出稼ぎというのは自国よりも賃金の高い国でするものです。しかし我が家の場合は、私が日本で稼いだお金をオーストラリアの家族に送って生活しているので、為替の変動や物価高、エネルギー価格の上昇などは本当に痛手です。ただ、家賃1万円あたりで確保できる面積を比べると、私が暮らしている東京都心のワンルームよりも、家族が住んでいるパースの賃貸住宅の方がやはりお得です。これは人口の少ない大陸ならではの良さでしょうか。借りているのは郊外の平均的なサイズの築40年の古い家で、大家さんは親切だし、木々の香り、鳥の声や空の美しさ、ビーチの近さなどを考えると、お金では測れない価値があります。

オーストラリアはほぼ四半世紀、不況知らずで成長を続けてきました。パースはオーストラリア第4の都市で、資源ビジネスで潤う街でもあります。新興住宅地に立ち並ぶ家はどれも大きく、海沿いの一等地には美術館のような豪邸が建ち並んでいます。街中をピカピカの高級車が走り、ボートハーバーには数千万円の豪華ヨットがずらりと浮かぶ。そんな桁違いの富豪たちの生活は別世界ですが、物価が高いのは、一般的な労働者の賃金が高いことの表れでもあるでしょう。

世界的な物価高に加え、日本の賃金の低さは本当に深刻です。OECDの2020年の国別平均賃金データを見ると、オーストラリアは55206米ドル(1米ドル120円換算で662万4720円)で、データのある35カ国中9位。日本は38515米ドル(同462万1800円)で、同22位。OECD平均は49165米ドル(同589万9800円)です。さらに、日本はここ20年以上も賃金が上がっていません。働く人が安く搾取され、企業の利益が労働者に還元されないのは、おかしいですよね。

国は再分配を謳うなら、まずは働く人にきちんと報いる政策を実現してほしいです。正規雇用の人を増やし、最低賃金の引き上げと昇給を確実に実行すれば、人々の暮らしが豊かになるだけでなく、将来を悲観せず、安心して生きることができます。労働がきちんとお金で報われれば、社会に対する感謝と信頼が生まれます。コロナ対策の「イベントワクワク割」も大事ですが、人が希望を持って働き、人生をワクワクして生きられるようにする施策こそが必要でしょう。


前回記事「「ウクライナ避難民」受け入れに思う、私たちに求められる「意識変化」」はこちら>>

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