円山応挙や長沢蘆雪が描いた、もふもふでかわいい子犬の絵は、展覧会でも大人気です。「かわいい江戸絵画」「へそまがり日本美術」など、主催する展覧会で「江戸絵画ブーム」を牽引してきた府中市美術館・金子信久先生の新著は『子犬の絵画史―たのしい日本美術』。かわいい子犬にずっとあたたかいまなざしを注いできた金子先生による、初めての「子犬の絵画史」です。今回はこの本から、子犬たちの姿を覗いてみましょう。
「子犬画」の成立は中国から
「子犬は、あっという間に大きくなる。つまり、ほんの短い間だけ世の中にいる、ちょっと特殊な生き物」と金子先生。そんなかわいい子犬をかわいらしく描く絵画が生まれたのは中国、それがやがて朝鮮にも伝わりました。
そして日本の画家へ、応挙へ
こうした子犬画は、日本でも狩野派の画家などが真似て描くようになりますが、その歴史において「革命」を起こしたのが、18世紀後半、京都の画家・円山応挙でした。従来にはない「リアルさ」を追求した応挙が描く子犬は、もふもふ、ころころで、いたずら好き。やわらかくて、あたたかい、本物の子犬がそこにいるかのようです。
金子先生は応挙の描く子犬を、「総合点において、日本のかわいい美術史上最強ではないかと思う」と言います。
かわいい伝統は近代へ
中国・朝鮮から伝わり、応挙が完成させた子犬の絵は、長沢蘆雪などの後継者を経て、近代へとつながっていきます。竹内栖鳳や小林古径、山口華楊も子犬への思いを込めた絵を描きました。
『ねこと国芳』という著書もある金子先生。「猫派ですよね」と言われると、どちらも命と心を持った愛おしい生き物なのに…⋯と「犬派・猫派」という分け方に抵抗を感じていたそうです。今回の子犬愛あふれる『子犬の絵画史 楽しい日本美術』では、「愛おしくて不思議な動物」子犬の絵がどのように描かれてきたかを辿り、かわいい美術の新しい切り口を教えてくれています。
<書籍紹介>
『子犬の絵画史 たのしい日本美術』
金子信久・著 2860円(税込み) 講談社・刊
国内外の美術館・博物館、プライベートコレクションから選りすぐりの「子犬の絵画」116点が大集合! 全部で何匹?
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