「恋をすると無条件に身体が反応してしまう女の子」を演じられる人


——「First Love」から「初恋」に至るまで、約20年の宇多田さんの楽曲を振り返り、寒竹さんはどんな気づきを得ましたか?

寒竹ゆりさん(以下、寒竹):歌詞をずっと見ていたら、まず、ずっと変わっていない部分に気づきました。1998年にリリースされたデビュー曲の「Automatic」は、恋をすると無条件に身体が反応してしまう女の子の心情を歌っていましたよね。そして、20年後の「初恋」にはこんな歌詞があります。

——うるさいほどに高鳴る胸が 柄にもなく竦む足が今 静かに頬を伝う涙が 私に知らせる これが初恋とーー

ここでも、理屈よりも先に身体が反応してしまう不可思議さが描かれていて、つまり宇多田さんはずっとフィジカルの反応(人間の本能)にフォーカスしているんですよね。ただ、「初恋」では宇多田さん自身が母になったからか、男女の初めての恋だけじゃない深い愛が謳われている気がしました。親から子どもに注がれる愛も本能的なものだし、きっと子どもが親を好きになる感覚も初恋に近い。そんなことを考えながら、今回は野口家と並木家の親子三代の話の話を盛り込むことで多様な愛のカタチを表現したいと思いました。

 

——キャスティングは真っ先に也英役の満島ひかりさんにオファーしたそうですね。

寒竹:もともとひかりちゃんは大好きな女優さんで、ずっとご一緒する機会を願っていたのですが、ようやく願いが叶いました。それこそ彼女はフィジカルの反応が賑やかなんですよね。血管が浮き出たり、頬を赤らめたり、呼吸が乱れたり……声色や表面的なテクニックではなく、本能的な肉体反応を拠り所としたお芝居をする人です。大人になった也英はある事情を抱えていて、自分ではどうすることもできない運命の下でも精一杯生きています。そこに満島ひかりという肉体が宿れば、魅力的な主人公になる確信がありました。

——一方、晴道は佐藤健さんが演じました。ルックスだけでなくお芝居も満島ひかりさんと相性が良いと思っていましたか?

寒竹:健くんは原作モノの作品に出演することが多かったように、ファンの期待を裏切らないようにビジュアルやお芝居を徹底的に構築して、結果を出してきたように思います。ひかりちゃんとは真逆のアプローチだからこそ、面白い組み合わせだと思いました。健くんには10代の頃に出会っていて、その頃から「彼のためにこんなキャラクターを書きたい」と思わせてくれるスター性がありました。彼の身体能力によって晴道が元自衛官であることに説得力が出たと思いますし、過去を背負った30代半ばに差し掛かる男の惑いや揺れも今の彼なら自然に演じてくれると思いました。