「『誰にも見られてない』って、人を変えるよね」

写真:Shutterstock

「マスクありき」が常識になり、世の中がゆっくりと動き始めたころ。仕事仲間に会うたび「久しぶり!」「元気だった?」のあと三言目には、必ずと言っていいほど「顔」のことが話題に上りました。「メイク、どうしてる?」「ファンデも口紅も、つけなくなっちゃった」「肌荒れがひどくて」「にきびまでできた」。そして「たるむよね」には、一同「わかる、わかる!」。

 

マスクをしていると声を張らない、表情が乏しい。表情筋を使わないから、知らず知らずのうちに「たるみ」が進行している⋯⋯、マスクが5歳も10歳も老けさせている!? ああ、怖い。皆で大いに盛り上がっていたとき、ひとりがこんな話をしてくれました。

「姪がね、スーパーマーケットでアルバイトをしているんだけど、彼女が言うには、最近、小さなことで『クレーム』をつける人が増えているらしいの。『ステイホームが長く続いたから、皆、苛立っているのかもね』と言ったところ、彼女が『もちろん、そうなんだと思う。でも、ね、マスクをしているから、言いやすいんじゃないかなあとも思うの。顔の半分が隠れていると、自分とわからないからと無意識のうちに遠慮がなくなって、つい、図太くなる。だから、普段なら言わないことも、つい口をついて出るんじゃないかって』。思わず、はっとさせられたの。マスクの本当の怖さは、ここにあるのかもしれないと思って」。

そして、こう続けたのです。「『誰にも見られてない』って、人を変えるよね」。

顔をたるませるのも、態度を図々しくさせるのも。これらをあえて「老化」と呼ぶなら、老化を引き起こすのは「どうせ、見られていない」という心なのかもしれません。誰かに会うからこの服を着よう、この口紅を塗ろう。誰かに会うから口角を上げよう、背筋を伸ばそう⋯⋯。裏を返せば、誰にも会わないことが口角を下げ、背筋を縮ませるのじゃないか、そう思うのです。「マスクの本当の怖さ」という言葉が、心に響きました。形は変われど、マスクとの付き合いはもう少し続きそうです。だからこそ、マスクをつけているときは、意識したいと思うのです。ほかの誰でもない、自分が自分をいちばん近くで見ている、と。