お互いに「触れる」シーンに込められた意味

『aftersun/アフターサン』 5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開 配給:ハピネットファントム・スタジオ © Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

――一方で、ソフィとカラムがお互いに日焼けクリームや泥を身体に塗るシーンには直接的な親密さがあります。こうした「塗る」シーンを何度も挿入したのはなぜですか?

お互いが触れるシーンについては、じつは意識的にパラレルに描いているところがあります。カラムがソフィに毛布をかけるシーンに対して、ソフィがカラムに毛布をかけるシーンが用意されているように。ただ泥を身体に塗るシーンに関しては演出ではなく、ソフィを演じたフランキー・コリオが自分でした動きなんですよ。映画化のなかでもとても大切なシーンなのですが、それは彼女がもたらしたものだったのです。

 

そうした触れるシーンについては、あの休暇をより現実のものとして観客に捉えてほしかったという意図がありました。それに、ふたりの親密さや距離の近さ。触ることそのものの感覚も観客に味わってほしかった。終盤のレイヴのシーンでは、大人になったソフィがカラムを抱きしめるのに対し、カラムがそれを突き放すという箇所がありますが、あの場面は「触れる」ことを映画で積み重ねていったあとに、突き放されるという効果を狙ったものです。


――映画の終盤では、大人になったソフィが同性のパートナーと暮らしていることがわかります。わたしはゲイで、クィアのカミング・オブ・エイジものの映画を多く観てきましたが、直接的に言及するのではなく、ちょっとしたカメラワークなどでソフィのセクシュアリティを示唆する本作のアプローチは稀有だと感じました。この点に関しては意識的でしたか?

そこに触れていただき、ありがとうございます! ソフィのセクシュアリティについてはわたしにとって大切な部分ではあるのですが、なかなか多くのひとには感じ取ってもらえないところなんですよ。そこを多くのクィアの人びとに汲み取ってもらえるのは、わたしにとっても嬉しいことです。ソフィのカミング・オブ・エイジの物語として、男の子とのキスへの好奇心や年上の女性への視点、それに男の子同士の情熱的なキスなどは、意図的に入れたものです。本筋からは逸れてしまうのでカットしましたが、じつは他にもそういったシーンはいくつかありました。わたしにとって大切な部分であることはたしかですね。

『aftersun/アフターサン』 5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開 配給:ハピネットファントム・スタジオ © Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

<作品紹介>
『aftersun/アフターサン』

 

出演:ポール・メスカル フランキー・コリオ セリア・ロールソン・ホール
監督・脚本:シャーロット・ウェルズ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022



取材・文/木津毅
構成/山崎 恵

 

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