3月8日「国際女性デー」に合わせて観たいエンタメ作品を、あらゆるジャンルに精通するプロの視点でセレクト! ライターの木津毅さんがおすすめする『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』は、男性たちにこそ観てほしい1本。ジェンダーという根深い溝を、それぞれが超えるためのヒントを見つけられるはずです。

3月8日「国際女性デー」とは?
国や民族、言語、文化、政治といった
あらゆる違いを超えて、これまで女性たちが達成してきた成果を讃える日です。

発端は1908年、米・ニューヨークの女性労働者が起こした待遇の改善を求めるストライキ。これを機に、女性の権利や政治的・経済的な社会参加を求める動きがヨーロッパ全域へと広がっていきます。決定打となったのは1917年、第一次大戦下のロシアで起こった「二月革命」です。女性たちの“パンと平和”を求める抗議は、男性たちや兵士らをも巻き込んだ民主革命へと発展します。結果、ロシア皇帝による帝政は崩壊。暫定政府は女性の選挙権を認めました。

この二月革命が起きたのが3月8日(当時のロシアではユリウス暦2月23日)でした。国際婦人年である1975年に、国連はこの日を「国際女性デー」とすることを発唱。77年に制定されました。

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『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』

『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』デジタル配信中 ブルーレイ&DVDセット5217円(税込み) 発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント © 2018 Channel Four Television Corporation and Candlelight Productions, LLC.  All Rights Reserved.

女性の権利のために、男性ができることは何なのか。いま、そんな問いと向き合っているひとも多いのではないかと思います。わたしもそうです。男性中心の社会構造を変えていくには、社会の一員である男性もまたジェンダー平等について意識し、何らかの行動を起こすことが必要だと考えているからです。しかしながら、当事者でないと気づけない問題が多くあるなかで、どのようにしてジェンダー・イシューにアプローチしてよいかわからず戸惑っている男性も少なくないでしょう。ただ、女性たちの意見や想いとどのように真剣に向き合えるかが鍵になっているのは間違いないはずです。

 

そこで、国際女性デーに観たい作品としてわたしが挙げたいのが、映画『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』(2017年)です。原作は、フェミニズム文学の作家として知られるナオミ・アルダーマンの自伝的な初小説。監督は『ナチュラルウーマン』で差別に立ち向かうトランスジェンダー女性を描いたチリ出身のセバスティアン・レリオ。主演はレイチェル・ワイズとレイチェル・マクアダムスという名優ふたりが務める、とても誠実に作られた人間ドラマです。

ニューヨークで写真家として活動するロニート(レイチェル・ワイズ)のもとに、あるとき父親の訃報が届きます。彼女は厳格なことで知られる超正統派のユダヤ教のラビであった父親と過去に対立し、ユダヤ・コミュニティから去ったことで親子の縁を失っていました。久しぶりにロニートはイギリスの故郷に帰りますが、コミュニティの人びとは彼女に冷たい目を向けます。

そんななか、ロニートはかつて親友だったエスティ(レイチェル・マクアダムス)とドヴィッド(アレッサンドロ・ニヴォラ)に再会します。ドヴィッドはロニートの父親の弟子としてユダヤ・コミュニティにおいて尊敬される存在となっており、また、エスティとは夫婦関係になっていました。動揺を隠せないロニートが「なぜ結婚したことを伝えてくれなかったの?」とふたりに尋ねると、エスティは「あなたが町を去ったから」と答えます。じつは、ロニートとエスティは過去に恋愛関係にあったのです。そして、父親の葬儀のために故郷に滞在するなかで、ロニートはエスティと再び惹かれ合ってゆきます。

『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』デジタル配信中 ブルーレイ&DVDセット5217円(税込み) 発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント © 2018 Channel Four Television Corporation and Candlelight Productions, LLC.  All Rights Reserved.

この映画の中心にあるのは間違いなく、ロニートとエスティの存在です。保守的なコミュニティから抜け出し自由な人生を送ってきたものの、父親からの愛情を受けられなかったことに苦しむロニート。いっぽう、コミュニティに留まり従順な妻として自らに課された役目を全うしてきたエスティ。ふたりは対照的な生き方をしていますが、保守的な価値観の社会に自由を奪われてきたという点では共通しています。厳格なユダヤ・コミュニティで女性同士の愛が許されないことを本作では描かれていますが、同時にそれは女性の権利を抑圧する社会全体を映し出すものだとも捉えられます。