心細い初訪問


――ピンポーン

そのおうちは、小高い丘のうえにあり、緑豊かな広いお庭があった。

年代を感じさせるレンガと生垣が、イメージするイギリス郊外の一軒家そのもの。スーツケースをひきずってここまでくるのは骨が折れたが、大感激。そうそう、こういうおうちに住んでみたかった!

しかしインターホンを押してもやっぱり応答はない。仕方ない、私が来るのは明日だと思っているんだから。近所にお夕飯の買い物に行っている、とかならいいのに。

思ったよりもバス停が遠かったし、隣家も離れている。ここに来るまで、ホストファミリーはおろか誰にも会わなかった。あたりはすっかり暗くなっている。まったく冬のイギリスときたら、まだ17時だというのに……。

塀沿いにちょこちょこと歩いて、家の裏のほうに回ってみた。

 

大きな窓があり、微かに灯りが漏れている。近づくと、ちょうどカーテンが少し開いて、部屋の中の男性と目があった。

「あ……! あの! ユリです、明日からお世話になる予定の、日本人学生の、ユリ・ミヤシタです!」

泥棒なんかに間違われたら大変だ。私は必死で笑顔で手を振って、ポケットからこの家の住所が印刷してある申し込み用紙を出して見せた。すると男性は目を丸くして、頷くと、玄関のほうに回って、とジェスチャーしてくれた。

――よかった……! 

私はほっとして、いそいで玄関に走っていく。中にいた男性は、ホストファザーのレイにしてはだいぶ若かった。レイとメアリーは60歳のはず。ということはメールにも出てきた一人息子のエリックに違いない。たしか、ラグビーが好きと書いてあった。

 


門が開いて、彼が顔を出した。

「えーと……?」

顔を突き合わせたものの、見知らぬ東洋人の登場に明らかに困惑している。私は慌てて頭を下げた。

「あの、初めまして、私はユリです、明日からこちらにホームステイでお世話になることになっています。ご子息の……エリックさん、ですよね?

私、日付を間違えてしまって、1日早く到着しちゃったんです。すみません……。今夜から泊めていただくのは難しいですよね? ごめんなさい、押しかけてしまって。お父様の携帯にかけたんですが、つながらなくて。でもこのあたり、ホテルとかなさそうですよね。

そうだ、申込をした会社に相談してみます、近くのステイ先を紹介してもらえるかも」

彼は私が手渡したステイ申込書を見ながら、必死のへたくそな英語の説明をきいている。ふんふんと頷いてから、こちらを見た。それからスマホで電話をしようとした私を手で制する。

「ああ、なるほど、それは大変だったね。今からじゃ町に戻るバスはないから、よかったら入って。あいにく両親は明日まで知人の見舞いにカンタベリーに行っているんだけど、明日には戻るから」

「本当ですか!」

もう少しで泣きそうになった。エリックから後光が射してみえる。