平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。


前編のあらすじ ユリは30歳を機に会社を辞め、貯金をはたいて語学留学のためイギリスにやって来た。最初の4週間はホームステイ。節約のために現地サイトを使って学校やステイ先を探して申し込んだところ、到着日を誤記入していたことに気づく。ホストファーザーのレイ(60)の携帯にかけるもつながらず、とりあえず家にやってきたユリ。すると在宅だった息子のエリックが、家に招き入れてくれるが……?

前編はこちら「到着日を間違えた...今夜は野宿!?」緊張しながら異国の一軒家を訪れた彼女。出迎えたのはまさかの...>>
 
 


第53話 ホームステイ【後編】

 

「イギリスの冬は、暗くて雨ばかりだよ。こんな時期に来るなんて、ユリは物好きだね」

ソファに移って、さっきあけたばかりのビンテージワインをごくごくと飲みながら、エリックはちょっと肩をすくめてみせた。年代物のエチケットがちらりと見えたけれど、とても高価なワインな気がする。私も注がれたグラスの匂いを楽しみながら少しずつ口に含んだ。

「ずっと夢だったんです。おまけにこんな素敵な一軒家にホームステイなんて、私は本当にラッキー」

お酒のせいか、だいぶ滑らかに英語が出るようになってきた。そういえば、エリックとは不思議なほど言葉が通じる。大学生の頃、LAに短期留学したときは、ネイティブの英語は速すぎてちっとも聞こえなかった。

英語が母国語じゃない留学生や外国人のほうがよほど話が通じる。外国語として英語を話す者同士、スピードも単語選びも平易なんだろう、きっと。

こちらの家はホスト役に慣れているから、エリックは外国人と話すことに慣れていて、気をつかってくれているのだろうか。

「エリックはお仕事、何をされているんですか? 私は、東京ではオフィスワーカーでした。英語を勉強して、外資系企業にステップアップしたいなって思ってるんです」

考えてみれば、外国人の男のひとと向かい合ってふたりでお酒を飲むなんて初めての経験だ。沈黙にそわそわして、私はつまらない質問をしてしまう。

するとエリックは、意外なことを口にした。