99条天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
渥美 え、公務員なんですか? 国民全員じゃなくて?
楾 そうです。憲法が縛るのは公務員、国を動かす権力者です。私たちが幸せに生きていくために、私たちを仕切ってくれる国家権力が必要です。しかし、権力は濫用されがちです。権力者は、みんなのために使わなければならない権力を、つい自分のために使ってしまいがちです。そこで、国家権力が私たちのために使われるように、国家権力をコントロールする法が、憲法です。国家権力を百獣の王ライオンとすれば、ライオンを入れる檻が憲法です。「檻の中のライオン」は「憲法に基づいた政治」というような意味です。憲法違反、つまりライオンが檻を壊すようなことをしないように、私たちがライオンや檻に関心を持たなければいけません。
立原 憲法についての講演活動を始めたきっかけはなんだったんですか?
楾 2013年の参院選です。96条の改憲の話が、自民党を中心に出たことですね。
渥美 96条は、憲法の中で「憲法改正の手続き」について定めた条文ですよね。
96条この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
楾 2013年の参院選では、自民党が「総議員の三分の二」という改憲のハードルを「過半数」に下げることを公約に明記しました。つまりライオン自らが「檻を軟らかいのに変えてくれ」と言ったわけです。96条改憲については、法律家であればおかしいと思うのは当然で、ほとんどの弁護士会が反対する声明を出しています。
楾 ところが、そういうおかしなことをいう自民党が、その選挙で大勝してしまった。これから何が起こるんだろうと、すごく心配になったんです。案の定、そこから「檻を壊す方向性」の動きが連続しました。まずは参院選直後に、内閣法制局長官が集団的自衛権の行使容認に前向きな人に交代しました。
※内閣法制局政府が出す法案や条約案のすべてにおいて、憲法および既存の法律との矛盾や不備などをチェックする機関。長官になる人物は、あらゆる法に精通する。2013年8月までの長官は、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈の変更を従来通り拒否してきた。
楾 その年の年末には、全国すべての弁護士会が違憲だと指摘している特定秘密保護法が、あっという間に可決されてしまいました。
※特定秘密保護法①防衛、②外交、③特定有害活動、④テロリズムに関する情報を、国の安全保障のため、行政機関の長が「特定秘密」に指定して国民に知らせないようにできる、という法律。
日本弁護士連合会と、全国すべての弁護士会が、憲法違反と指摘しています。政府が様々な情報を秘密にすることで、国民主権、民主主義、基本的人権、三権分立、平和主義、といった憲法の基本原理が侵される、というのが理由です。
引用元:『檻の中のライオン』
楾 憲法で守られてきた様々な権利がなし崩しに侵されていく、何が起きてもおかしくない流れだなという危機感がありました。主権者である私たちが、もっと憲法のことを考えなければいけないと思いました。
Comment