立原 「何が起きてもおかしくない」っていうのは、なんとなく感じますよね。自民党政権が勝手に憲法を変えてしまいそうな気もするし。

楾 改憲のこともありますが、問題なのはそれよりずっと手前のところです。そもそも憲法とは何か? 誰が守るルールか? ルール違反を取り締まるのは誰か? そのあたりの最低限のことが共有できていないなと。
相撲にたとえてみましょう。どちらの力士(=政党、政治家)を応援するかは個人の自由ですが、二人の力士は対峙しながらも、「相撲(=政治)は土俵(=憲法)の上で取る」というルールは共有していますよね。いくら横綱でも、土俵の外で相撲を取ってはいけませんし、土俵の形を勝手に変えることはできませんし、行司に圧力をかけてはいけません。でも、そんなことが起きているのではないかと。土俵を壊す横綱をみんなで応援していたら、相撲が相撲でなくなります。誰が横綱でも同じですね。誰が政権を取っても、政権の上にあって同じように守らなければならないルールが憲法です。憲法が「最高法規」だというのは、そういう意味です。
 


98条この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
②日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
 


楾 たとえ立場や考えが異なっても、憲法というルールに則って政治を行う—— 立憲主義を、まずは共有しないといけないなと思ったんですよね。
 


※立憲主義権力者の権力の濫用を抑えるために憲法を制定するという考え方のことで、広く「憲法による政治」のことを意味している、とされる。
引用元:日本弁護士連合会HP
 
 


改憲の動きはあるが、改憲は簡単ではない


渥美 そういえばこの間、新聞の記事で、「60%が改憲に賛成」っていう世論調査を見たんですが、そうなんだ……とちょっと驚きました。

楾 「改憲に賛成ですか」という問いは、意味がありません。憲法にはたくさんの条文があり、それぞれについて様々な変え方があります。「国防軍創設!」も、「天皇制廃止!」も、「改憲に賛成」の人です。それらをひとくくりにして「改憲に賛成の人が多い」と言ってみても、何の意味もありません。どの条文をどう変えるか、具体的にフォーカスしなければ、賛成も反対もありません。「9条を変えることに賛成か、反対か」という聞き方でもまだ不十分です。「9条の条文の、この言葉をこう変える」というところまで絞ったうえで聞かないと。国会で改憲の発議をしていくうえでもそうです。

渥美 自民党は改憲案を公表していますね。ある党が出した改憲案を「ワンセットでポン! と変える」みたいなことはできないのでしょうか。

楾 改憲は、実はそんなに簡単ではありません。憲法は「ライオンを入れる檻」なので「ライオンの力で簡単に変えられないような硬い檻」になっています。
冒頭で話したとおり、改憲の発議には衆・参各議院の総議員の3分の2の賛成が必要です。どの条文をどのような言葉に変えるか、具体的な改憲案に3分の2の賛成を集める必要があります。現状では、自民・公明・維新・国民民主の4党が揃わないと3分の2に達しません。4党が合意できる改憲案を作っていくには、各党がそれぞれ妥協し、条文案をすり合わせていく必要があります。これはそう簡単ではありません。改憲に前向きだ、という議員が多いだけでは発議できませんし、各党が「うちはこう思います」と言いっぱなしでも発議できません。条文案をすり合わせていく動きはまだこれから、という状況だと思います。

渥美 自民党の改憲案は、どういう内容でしょうか?