道兼に寄り添う道長で思い浮かぶ、柄本佑の代表作といえば、NHK のドラマで映画にもなった『心の傷を癒やすということ』(20年)です。

阪神・淡路大震災で自ら被災しながらも、被災者たちの心のケアに尽力した精神科医・安克昌さんをモデルにした物語で、在日韓国人として生まれた自分のアイデンティティを見つめながら精神科医となり、多くの被災者の声に傾聴し共感し寄り添い続ける物語です。そのときの柄本さんはひたすら慈愛に満ちた目をしていました。柄本さんの色気とは慈愛に置き換えていいかもしれません。アーモンド形のあの上まぶたが、仏様の目のように見えてきます。
 

 


柄本さん自身が常に、この先生のように向き合った人の言動に神経を傾けている気がします。例えば、コロナ禍、アクリル板越しにインタビューしたときのことです。感染防止のアクリル板があると互いの声が聞こえにくいことがよくあり、そういうとき、インタビュアーもインタビュイーも聞こえないなあと思いながらお互いなんとなくの勘でそつなくやりとりしてしまいがちなのですが、柄本さんは、耳をそばだて注意深くインタビュアーの声を聞こうするリアクションをされて、それが素敵だなと感じたことを覚えています。そして質問にもできるだけ誠実に応えてくれようとする方だなとも感じました。

「柄本佑の色っぽさ!」まひろ・倫子・明子...過去の共演作から見る、底を知らない色気の源泉【『光る君へ』18回までを振り返る】_img0
「光る君へ」19回(5月12日放送)より。©️NHK

実物の藤原道長はドラマほど誠実な善人ではないような気もします。実際見た人はもういないのでわかりませんが、悪い記述も残っています。でも、『光る君へ』では、柄本佑さんが演じることによって、つねに相手の声を聞き、相手の立場に立って考えようとする、こんなにもいい人になっているのではないでしょうか。

これからてっぺん取ったあとの道長がどうなっていくか、悪漢に変わるのか、刮目します。
 

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