世界最高峰の老年医学科で働く山田悠史医師が、「脳の老化と認知症」の進行を遅らせるために“本当に必要なこと”、“まったく必要でないこと”を伝えます。
山田 悠史
米国内科・老年医学専門医。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。新型コロナ専門病棟等を経て、現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ「ライブニュースα」レギュラーコメンテーター、「NewsPicks」公式コメンテーター(プロピッカー)。カンボジアではNPO法人APSARA総合診療医学会の常務理事として活動。著書に、『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。
X:@YujiY0402
Podcast:山田悠史「医者のいらないラジオ」
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部屋の換気が脳を守る
「自宅の換気、していますか?」
患者さんにそう質問をすると、こんな答えが返ってくることが多くなりました。
「今はコロナも流行っていないしね。換気はしなくなりましたよ」
換気=感染症予防というイメージは、もしかすると根強いものなのかもしれません。実際のところ、コロナウイルスやインフルエンザが流行するときぐらいしか、「こまめに換気しましょう」というアナウンスがされないため、換気が感染症とだけ結びつくのも無理はないかもしれません。
逆に、「脳を守るために換気しませんか?」と言われてもピンと来る方はあまり多くないでしょう。
しかし実際のところは、換気はあなたの脳を守るためにも大切な可能性が高いのです。それがなぜなのか、ここで少し考えてみたいと思います。
普段あまり意識をすることはないかもしれませんが、実は自宅の中というのは、屋外よりもはるかに多くの有害ガスが充満した場所です。
室内の空気を汚す料理やスプレー
例えば、ガスコンロを使って自宅で調理をした場合、少なくない空気の汚染が起こります。PM2.5(直径が2.5マイクロメートル以下の非常に小さな粒子のこと。このサイズは人間の髪の毛の太さの約30分の1であり、肉眼では見えにくいほど小さい)と呼ばれる微粒子や、二酸化窒素などの有毒ガスは、換気扇を使わずガスコンロで調理した場合、大気汚染で安全と考えられるレベルの100倍を超えるような濃度まで上がってしまうことが知られています(参考文献1)。その上、窓を閉めっぱなしで自宅で過ごしていれば、あなたの体は、その有毒なガスに晒され続けることになります。
PM2.5は無臭で大きさがあまりに小さく目に見えないため、その存在に気がつくことは難しいでしょう。すると、ただただ無意識のうちに吸い込み続けることになります。あるいは、消臭スプレーを使ったり、消毒液や漂白剤を用いたりすることでも室内の空気に不純物を増やし続けることになります。実はこのように、さまざまな場面で私たちは自分の身のまわりの空気を化学物質や微細な粒子で「汚して」いるのです。
そして、こうした汚れが少しずつ私たちの脳にも影響をもたらすことになります。
実際、これまでの研究で、空気中に含まれるPM2.5が子どもから高齢者までどの世代においても脳の発達や認知機能に影響を与えうることが報告されています(参考文献2)。例えば、ある研究では、PM2.5の濃度が大気1立方メートル中に1マイクログラム増加するたびに、認知症リスクが3%ずつ増加すると報告しています(参考文献3)。あるいは、自宅が(交通量の多い)道路に近ければ近いほど認知症リスクが高かったという報告もあります(参考文献4)。このように、身近な環境における空気の汚染は、私たちの認知機能に関連していそうなのです。
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