PM2.5が鼻から脳まで入り込む!


では、一体なぜこのような関連が成り立つのでしょうか。空気汚染が認知機能の低下の原因であると仮定した場合、様々なメカニズムが考えられています。

まず、PM2.5のような微細粒子は非常に小さいため、まるでレーダーの探知をくぐり抜けるステルス兵器のように空気の通り道から肺、さらには血管にまで何も自覚されることなく入り込むことができます。さらには血管を通って全身を旅することができてしまいます。また、興味深いことに、超微細粒子は鼻を通じて直接脳に入りこむこともできます(参考文献5)。つまり、肺や鼻が、汚染物質が脳に入りこむための「入り口」になっているのです。

これらの粒子が脳に侵入すると、脳内では様々な防御反応が引き起こされます。脳の中では、マイクログリア(脳の中の免疫細胞の一種)やアストロサイト(もう一種の脳細胞)と呼ばれる細胞が活動していて、これらの細胞が侵入してきたPM2.5に反応し、炎症を起こします(参考文献2)。この炎症が脳の細胞にダメージを与え、認知症への道を開く可能性があるというのです。

「部屋の換気」が認知症を予防する可能性大!脳を守る生活習慣を知っておこう【老年医学専門医・山田悠史】_img0
写真:Shutterstock

さらに、有害ガスが脳の細胞に直接的にダメージを与える可能性や、血管の中で炎症を起こし血管の動脈硬化を進めることで認知症を起こす可能性も指摘されています(参考文献3)。このように、一見全く関係のなさそうな空気の汚染が、実は認知症のリスクになりうるのです。
 

 


窓を開ける定期的な換気は必須!


これに対し、個人レベルでどのような対策をすれば認知症リスクを減らせるのかについては、実のところまだよく分かっていません。ただし、喘息のような他の病気を予防する意味でも、空気の汚染への対策が重要なのはもはや言うまでもないでしょう。

職業や生活スタイルにもよりますが、多くの人は平均的に1日の3/4程度は室内でその時間を過ごすと言われています。そうなると、室内の空気を改善する取り組みは、大気汚染を改善する政策レベルの取り組みと同じかそれ以上に重要なのかもしれません。
また、有害物質による汚染は一般に外気より室内の方が悪く、多くの物質が平均的に外気の2~5倍に上ると考えられています。こうした面からも、「まずは身近な自宅の空気から」です。

「部屋の換気」が認知症を予防する可能性大!脳を守る生活習慣を知っておこう【老年医学専門医・山田悠史】_img1
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最も確実で有効な方法は、窓を開けた定期的な換気です。とは言っても、「道路が近くて」という場合もあるかもしれません。そのことが換気の意義を無くすわけではありませんが、そうした土地の問題もあるのであれば、PM2.5などへの対策としては空気清浄機も役に立つかもしれません。しかし、空気清浄機も万能ではなく、有害物質の全てを除去してくれるわけではなく、換気の置き換えにはならないことには注意が必要です。

それ以外にも、ガスコンロの使用を減らす、使用時には換気扇をしっかりと回す、漂白剤などの使用で不用意にガスを発生させない、自宅の清掃などをした際にはしっかり換気するなどの対策も重要でしょう。
それらができていなければ、あなたは知らず知らずのうちに、認知症を近づけているかもしれません。
 

参考文献
1. The Gas Stove Toxicity Debate | Environmental Health Sciences Center [Internet]. [cited 2024 Feb 8];Available from: https://environmentalhealth.ucdavis.edu/air-quality/out-frying-pan-and-fire-gas-stove-toxicity-debate#
2. Serafin P, Zaremba M, Sulejczak D, Kleczkowska P. Air Pollution: A Silent Key Driver of Dementia. Biomedicines 2023, Vol 11, Page 1477 [Internet] 2023 [cited 2023 Oct 21];11(5):1477. Available from: https://www.mdpi.com/2227-9059/11/5/1477/htm
3. Abolhasani E, Hachinski V, Ghazaleh N, Azarpazhooh MR, Mokhber N, Martin J. Air Pollution and Incidence of Dementia: A Systematic Review and Meta-analysis. Neurology [Internet] 2023 [cited 2024 Feb 8];100(2):E242–54. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36288998/
4. Chen H, Kwong JC, Copes R, et al. Living near major roads and the incidence of dementia, Parkinson’s disease, and multiple sclerosis: a population-based cohort study. Lancet [Internet] 2017 [cited 2024 Feb 8];389(10070):718–26. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28063597/
5. Heusinkveld HJ, Wahle T, Campbell A, et al. Neurodegenerative and neurological disorders by small inhaled particles. Neurotoxicology [Internet] 2016 [cited 2024 Feb 8];56:94–106. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27448464/

 

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