人気カウンセラー・根本裕幸さんの連載、テーマは「しんどい母親の手放し方」。毒母育ちライター・M子のカウンセリング、根本先生の「親の背景」解説ターンも佳境です。毒親かどうかにかかわらずミドル世代の女性たちが抱える生きづらさ、そのベースにある「社会的要請」とは?
〜M子の母はこんな人〜 (※前回までのおさらい)・M子に対して、幼少時から一貫して否定的な態度を取る
・M子にだけ思ったことをそのまま言ってくる、内弁慶な面も持つ
・お見合い結婚した父のことが大好き。M子の兄も溺愛している
日本人の価値観は“バブル世代”の前後で大きく異なる
M子 私は今まで、母は兄可愛さに私を認めたくないんだと思ってたんです。それは事実の一つとして、一方で、私が自由なことに対する嫉妬も大きいというのは正直、目からウロコでした。
根本 時代的な抑圧もですが、その抑圧に対する「反発」にも、やはり時代的な要因があります。日本には“バブル世代”ってありますよね。M子さんより10歳くらいか、もう少し上の人たちです。日本人の価値観の変遷をみると、あの世代が、それまでのいろいろな古い慣習を打ち破ってきたという歴史があります。
バブル世代って、世の中の景気が良かったこともあってとにかく“派手”だったんですね。ジュリアナもそうですし、ママがミニスカートにハイヒール履いてベビーカー押してる、みたいなこともあの世代から始まりました。あとは、子どもに大人顔負けの上等な服を着せるといったこともそう。バブル世代の前と後では、世の中の価値観が大きく分かれているんです。
それより前、つまりM子さんのお母さんの時代では、どんなに反発しようと全員25歳までには結婚しなきゃいけなかったんです。“クリスマスケーキ”なんて言われてたのはM子さんも知ってますよね? 25歳過ぎたら行き遅れと言われて、だから就職するにしても女性はみんな一般職で、結婚するまでの“腰掛け”でした。もちろんこれは、当時の女性たちが仕事に対していい加減だったということではありません。社会が女性たちにそういう振る舞いを求めていたということです。
M子 クリスマスケーキも腰掛けも、心底女性をバカにした言葉ですよね……。
根本 今じゃ信じられないですよね。そんな時代ですから、M子さんのお母さんのように「結婚せずに働き続けたい」と思っていても、結局は世の圧力に従うしかなかった。当時は親たちも、娘を若いうちに結婚させるのに必死でしたしね。お見合いでも何でもいいからとにかく結婚して、子どもを産んで育てる。それが女性の生き方だという「社会的要請」があったわけです。
ですがバブル世代になると、こうした価値観も壊れていきます。結婚だけでなく、仕事でも女性の総合職が増えてきたのがこの時期で、ようは、女性の生き方そのものが一気に変わってしまったんですね。これが母親世代の嫉妬を生むわけですが、同時に娘世代のほうにも混乱が生じるんですよ。お母さんの時代は反発しても社会が受け入れてくれなかったんですけど、今は受け入れてくれるでしょう。だからずっと反発し続けられちゃうというか、母親との問題を大人になっても続けられてしまう。
M子 ーーーー……。
根本 さらにいうと、娘世代の混乱、生きづらさと言い換えてもいいかもしれませんが、これには価値観の変化とともに、“家”とか“家族”というものに対する意識が薄くなっていることも関係しています。
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