発売以降、「表紙だけで泣ける」「涙で文字が見えない」などの大反響を呼び、発売前増刷・発売一週間にして即重版となった話題書『パンダのタンタン 二人の飼育員との約束』。
阪神・淡路大震災がきっかけで来日し、“神戸のお嬢さま”として愛され続けるパンダのタンタンと、二人の飼育員の物語です。タンタンが動物園の来園者に見せるのんびりごろごろとした姿の背景には、我が子を失い、パートナーと死別し、心臓疾患と闘う波乱万丈の“パン生”がありました。
懸命に生き抜いたタンタンと、そばで支えた二人の飼育員の姿から、「命を預かる」とはどういうことなのかまで考えさせられる作品です。
著者の杉浦大悟さんはNHKの番組プロデューサーとして、タンタンの密着番組「ごろごろパンダ日記」の制作を通じて、5 年間タンタンと飼育員の二人のことを取材してきました。
今回は『パンダのタンタン 二人の飼育員との約束』から、タンタンの赤ちゃんの出産エピソードを抜粋して紹介いたします。
<念願の赤ちゃんが生まれる>
「出た! 出た! 出た! 出たよ!」
モニターを見つめる梅元たちが思わず上ずった声をあげたのは、8月26日午後3時46分。体長約20㎝、体重わずか100gほどの小さな赤ちゃんパンダが誕生した。トレードマークの白と黒の毛は生えておらず、ピンク色の薄くてやわらかい皮膚に包まれている。まぶたも閉じているため視力はなく、自力で歩くこともできない。ピィーピィーと鳴き声をあげ、体をもぞもぞ動かしている。
タンタンは赤ちゃんを優しく抱き上げると、自分のお腹にのせてあげた。
「やった! タンタンがお母さんになったぞ」
「生まれた瞬間、泣きそうになったよ」
「いやーよかった」
赤ちゃんの元気な姿が確認されると、控え室につめていたスタッフたちは互いをねぎらいながら喜びを分かち合った。無事に生まれてくれて、本当によかった。
誕生の喜びをかみしめながらも梅元がなによりも驚いたのは、赤ちゃんパンダがあげる鳴き声の大きさだった。手のひらにのせられるほど小さいのに、鳴き声はパンダ舎全体に響き渡るほど大きかった。
無事誕生したからといって安心はできない。赤ちゃんパンダの飼育は、ここからが正念場だ。母親の胎内で十分に成熟しないまま産み落とされるパンダの赤ちゃんは、当然体が弱い。動物園では万全を期すため、出産に合わせて中国・四川省にある臥龍パンダ保護研究センターからパンダ研究の専門家を迎えることにしていた。
- 1
- 2
Comment