エクアドルといえば第一にバナナ、その次にイグアナのいるガラパゴス諸島、その次あたりに、この国の特産なのに違う土地の名前がついたパナマハットなどが頭に浮かびますが、普通の市民の暮らしぶりや、娯楽などはどんな風なんでしょう。土地の人と話していたら、日本では珍しくなった闘鶏が小さい町でも競技場で開かれているよ、と聞きました。それは行って見なくては!男っぽい世界だろうと、少し気合いを入れて会場に向かいました。

 

海辺の町エズメラルダス(エメラルドの意)の週末はとてものんびりしたムード。赤道直下の常夏の地ですからそれも当然なのですが、ロングビーチはいつでもみんなの憩いの場。家族連れもクラスメートも恋人たちも、波打際に集っています。ビールでもスルッと飲みたくなるのですが、この日の私の目指すところは闘鶏場、ビーチから歩いて五分ほどのところに闘鶏場がありました。

 

そこに入ってみると、まだギャラリーには人が少なく、静けさが際立っています。その一方で場外では試合前の儀式のような準備が、粛々と始められています。各地から集まってきたオーナーたちが、それぞれの腕に美しい鶏を大事そうに抱いて計りの前に並んでいます。それまでの私の人生で鶏の毛艶をつぶさにチェックすることはありませんでしたが、改めて見てみると、この鶏たち、肉体はピリッと引き締まり、綺麗な色を何色も重ねた羽根に赤いトサカ、長い足、、、堂々とした造形美をたたえています。身近な存在にして描きがいがあったのでしょう、日本画の対象として度々登場するのも納得だぁ、などと感心します。

 

全てのファイターの計量、装具の不正チェックなどが済んだころにはギャラリーはいっぱいになっていました。
それにしてもなんと絵になるリング! 集まった人々の気迫が小さなリングに密集していて、独特の緊張感に包まれています。大きさは相撲の土俵ほどなのですが、赤く塗り込まれた壁が闘う鶏たちや観衆の気持ちを、ますます高ぶらせるのでしょうか。冷静に見ているつもりの私も、場内のハイなエネルギーに煽られドキドキしてきます。

 

色々な闘鶏のスタイルがあるのでしょうが、この地域のやり方は、鶏のオーナーが自ら鶏を鍛えて仕込み、競技の舞台に自分の手で運んで上がらせます。対戦しているのはあくまでも鶏同士ですが、マッチの様子を見ていると、後ろで鶏を鼓舞するオーナーも一緒になって闘っています。声を張り上げて闘いを促すオーナー、大きな羽根をはばたかせて飛び上がる鶏たち、リングの端まで追い詰められた状況での揉み合いに場内の視線が集中します。立ち上がる人、叫ぶ人、ギャラリーの反応も様々で、人々の表情を追いかけているだけでもシャッターチャンスに事欠きません。

 

人がこんなに小さい生き物の闘いに真剣になって興奮しているのを見ていると、ちょっと面白い気持ちになってしまいます。オーナーと鶏の関係もなんとも親密で。私は彼らが自分の鶏を猫のように撫で回して可愛がっている様子を試合前から見ていました。そんなに愛しい鶏を闘わせるんだから複雑だよなと思っていたのですが、試合の様子を見て解釈が明らかに変わりました。オーナーたちは一心同体の自分の鶏に自分自身を投影しているのですね。オーナーだけでなく、ギャラリーの人々も然り。無心に相手に絡んでいく鶏に「負けるもんか!まだいける!」と応援の声が止まらないのは、タフでありたい自分への声援なのです。私もいつの間にか大声で声援を送りながらシャッターを切っていました。

 

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在本彌生

1970年生まれ。東京都出身。アリタリア航空の客室乗務員として勤務しているときに写真と出会い、2006年に独立。多数の雑誌やカタログ、CDジャケットなどの撮影をおこなう。写真集に『MAGICAL TRANSIT DAYS』(アートビートパブリッシャーズ)、『わたしの獣たち』(青幻舎)、『熊を彫る人』(小学館)がある。