新しく建設されたビルが、多少、家賃を犠牲にして安めの賃料を提示すれば、周囲の古いビルからテナントを奪ってくることができます。経済全体では誰かが損をしているわけですが、オフィスビルを新しく建設するデベロッパーと、そこに融資する銀行は直接的には損をしません。その結果、需要をはるかに上回るオフィスビルが次々と建設されるという異常事態になっているのです。これがオリンピックの時期と重なったことから、オリンピックの影響で次々と新しいビルが建設されているというイメージにつながったわけです。

再開発が続く東京・渋谷駅周辺。 写真:古城 渡/アフロ

これらの大型開発の中でオリンピック特需が占める比率は低いですから、オリンピックが終わったからといってこうした開発がピタッとなくなってしまうわけではありません。需要を上回るビルを建設することについては、最終的に大きな問題を引き起こすと筆者は見ていますが、それが顕在化するのはもう少し先のことでしょう。したがってオリンピックの終了で一気に不景気になるというシナリオは、現時点では考えにくいと思います。

 

しかしながら、2020年は景気がよくなるのかというとそれはまた別問題です。2020年からはこれまで大企業のみが対象だった残業規制が中小企業にも適用されますし、同一労働同一賃金の導入で、一部の正社員は手当が大幅に削減される見込みです。賃金が上がる非正規社員もいますが、昇給になったからといって消費を一気に拡大するとは考えにくく、全体的に消費は低調に推移しそうです。

またオリンピックの直接的な効果に対する企業の期待も、以前と比較するとかなり下がっています。調査会社である帝国データバンクが2019年10月に行った調査によると、経済成長のために東京オリンピックは有効であると回答した企業は47%しかなく、2013年の調査と比較すると大幅に低下しました。また、自社に対する影響という点でも、大企業はプラスの影響があると考えているようですが、企業規模が小さくなるにつれて、プラスの影響があると回答する割合が減っています。

以前と比較するとオリンピックに対する企業の期待は小さくなっており、恩恵は一部の大企業に限定されるとの認識が広がっているようです。

そもそもオリンピックをきっかけに経済成長するというのは、(かつての日本がそうでしたが)いわゆる発展途上国の話であり、成熟した先進国にあてはまるものではありません。オリンピック特需の消滅で反動不況にならない代わりに、オリンピックによって大きな経済効果が得られる可能性も低いと見てよいでしょう。

オリンピックは純粋に競技を楽しむイベントであり、それ以上でもそれ以下でもないというのが、もっとも自然な認識だと筆者は考えます。

前回記事「仕事ができる人・できない人を一発で見極める方法」はこちら>>

 
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