夫を怒らせないよう下手に出ていたHさんの場合


夫と別居中だったHさんは、夫からくる脅しのようなLINE に毎日悩まされていました。Hさんは、夫が感情的な文章を送ってきた時には、なだめたり、少しでも夫を怒らせないように下手に出るという対応をしていたそうです。

そこでわたしはHさんに、決して感情的にならず、必要最低限な事務的な返信を淡々と続けるようにお伝えしました。LINEといえど、怒っている夫をそのままにするのはこわいものです。冷静な対応を続けることにはとても根気がいります。

 

しかし、一定の距離を保ち続けることで、しっかりとした境界線を作ることができるのです。
最初は揺れていたHさんですが、最低限のやり取りを続けるうちにHさんの変化を感じたのか、夫が根負けしたのか、対応にも変化が見られ、用事のある時以外、LINEがこなくなったそうです。

 

わたしはわたし。あなたはあなた


モラハラ夫は、妻の隙に付け入るのが得意です。夫の顔色に合わせて変わるような不安定な境界線では、結局夫に支配されてしまいます。そのため、しっかりとした境界線を作るためにはあなたの踏ん張りが重要になってきます。この踏ん張りは、あなたが変わりたいという覚悟でもあります。最初は大変だと思いますが、主導権は常に自分が持つことを忘れないようにしてくださいね。

最後に、わたしが大好きな詩を紹介させていただきます。
この詩は、何かの犠牲になることなく自分を大切にすること、他人を尊重することで、健全な人間関係は成り立つことを教えてくれています。わたしもこの詩に何度も救われました。これからの人生の中で、境界線に迷った時のお守りとなると思います。

「ゲシュタルトの祈り」「わたしはわたしの人生を生き、あなたはあなたの人生を生きる。
わたしはあなたの期待にこたえるために生きているのではないし、
あなたもわたしの期待にこたえるために生きているのではない。
わたしはわたし。あなたはあなた」(略)
――フレデリック・S・パールズ(ドイツの精神科医・ゲシュタルト療法の創始者)

期待と信頼とは違います。期待は、相手をあてにして心待ちにすること。信頼は、相手にすべて任せられるという気持ちを持つことです。この違いは、相手軸、自分軸の違いとなります。

期待は、相手次第によって結果が変わってくるので、軸を相手に預けることになります。信頼は、相手がどんな選択をしても尊重して認める姿勢なので、軸は自分にあるのです。

福山れい(ふくやま・れい)さん
公認心理師。2011年より心理カウンセラーとして、女性相談(夫婦問題・モラハラ・DV・離婚など)に携わる。子供のころから親の価値観に縛られ自己肯定感も低く、結婚しても自分が我慢すればいいと夫に振り回されていたが、離婚を決意したことで、自分の可能性に目覚め、心理の学びを深める。その後、自分と同じような思いをしている女性をサポートするために起業。延べセッション数は2000 件以上。近年は、SNS 相談員、スクールカウンセラーとしても活動中。【公式HP】

『7つのワークで「自分らしさ」を取り戻す モラハラ夫の精神的支配から抜け出す方法』
著者:福山れい 日本能率協会マネジメントセンター 1650円(税込)

モラハラ夫の妻たちは、物理的・精神的に自立を阻まれている――。自身もモラハラ夫との離婚を経験し、心理カウンセラーになった著者が、「モラハラ夫への精神的な依存」から抜け出すための7つのワークを中心に紹介。「あなたが踏み込んで欲しくないことはなんですか?」「セルフイメージをあげよう」など、“私はどうか?”を問いかけながら読み進められる内容で、自分らしく生きる選択をするための気づきを与えてくれる一冊。



構成/金澤英恵

 

 

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