ACジャパンの「地域猫」のCMを夏ごろから見かけるようになりました。猫のことを思って、地域の協力のもとに野良猫を管理する地域猫活動ですが、猫の立場ではどんなふうに見えるのでしょう。10月12日に2巻が発売された『ツレ猫 マルルとハチ』は、野良猫のシビアな世界を猫視点で語るストーリーです。

主人公は、飼い猫だったのにある日迷子になって野良化した白猫・マルル。室外機から落っこちるほど猫としてはトロい彼は、目つきの鋭いハチワレ猫のボス・ハチに絡まれます。

お前見ない顔だな よそものだろ

俺の縄張りから出ていけと言われ、マルルは必死に言います。

 

その通りすぎるぜ⋯ハチの言葉に納得してしまうマルル。安全そうな場所を探すも、都会では人間の餌やりや残飯の多さで縄張りが狭くなり、猫密度が多くなっていました。数日間餌にありつけないまま、時折ちやほやしてくれる人間たちがいたと思えば「タダモフ」だけされて餌をもらえず終了。

 

うろつきながら薄汚れていく彼が、たまに夢で見るのはペットショップにいた子猫時代のことでした。

 

やっと自分を買ってくれる(飼ってくれる)家族が現れて幸せな日々を過ごしていたのに、どうしておれはあの時、間違いを犯してしまったんだろう。夢から覚めて、軒下でぐったりと横たわるマルル。その時、とんでもない姿のハチと再会するのです⋯⋯!

 

この再会でマルルとハチはつるむようになります。野良猫の世界では、強いボス猫として他の猫がびびって道を譲ってくれるハチ。野良猫として日々をサバイバルするための知恵をマルルは教わります。

たとえば、毎日餌をくれるばあちゃんは「神」と思え、とハチは言います。でも、人間の社会では野良猫に餌をやる行為は「迷惑」でした。ばあちゃんは近所の人によく怒られています。

 

「猫さらい」やすおとの攻防戦もあります。保護猫活動も猫の視点だと単なる恐ろしい存在。彼につかまった猫たちは身体の一部をいじくられて(去勢される)戻ってくると前と様子が変わってしまうので、彼の姿を見ると野良猫たちは素早く逃げてゆきます。

 

認知症のばあちゃんがあげる餌を待ち望み、やすおが仕掛けた捕獲器から逃げながら、一日でも長く生き延びようとする猫たち。マルルがペットショップにいた子猫時代を思い出して悟るシーンは切なく、彼らの立場の本質を示しています。

 

野良猫も飼い猫も同じように、生き方を選べない。その命の長さは人間次第なのです。猫たちは完全に擬人化されて心のうちを雄弁に語るので、気づくとマルルたちに感情移入してしまいます。

マルルは野良化しても、ペットショップから自分を買ってくれた(飼ってくれた)家族の小さい娘さんを「撫で方が上手くなかったけど大好きだった」と振り返っています。ハチは生まれながらの野良猫らしく、人間をすぐには信用しないと言います。でも餌をくれるばあちゃんに対しては膝に乗り、撫でさせてあげます。猫は人間を一度信頼したら信じ続けてくれるのに、人間は彼らに「かわいい」と言ってみたり、「どっか行け」と追いやったり⋯⋯。猫は気まぐれとよく言うけれど、マルルたちを見ていると猫より人間の方がよほど気まぐれなんだ、と気づかされるのです。

 

【漫画】『ツレ猫 マルルとハチ」を試し読み!
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『ツレ猫 マルルとハチ』

園田 ゆり (著)

ある事情により、飼い主の元を離れて野良猫になった”マルル”。外の世界は、想像以上に厳しい環境だった。そんな中、マルルは目つきの悪いオス猫”ハチ”に出会う。2匹は一緒につるむようになるが――。ハードなこの世界を、たくましく生き抜く野良猫たち(とその周囲の人々)の物語! かわいくて面白い、でも、ハードボイルドで涙腺が刺激される猫漫画!



作者プロフィール
園田ゆり

アフタヌーン四季賞2009年冬のコンテストにて『ライオン』で大賞受賞。数々の読み切り作品を発表後、「アフタヌーン」2016年11月号より『あしあと探偵』を連載。コミックDAYS(講談社)で現在連載中の『ツレ猫 マルルとハチ』2巻が10月12日に発売された。
Twitterアカウント:@sonoda_yuri


構成/大槻由実子
編集/坂口彩