「叱られたがっている」人などいない


「ホワイトであること」「叱られるかどうか」「やりがいや将来性を感じられること」はそれぞれ独立したことなのに、全部ごっちゃに語ってしまっているんですよね。同じ情報でも伝え方、特にタイトルによって真逆の印象をもたらすこともあります。

改めて、なぜ若者がホワイトな職場環境だと不満を持つかのように持っていったのか、本当に不思議でなりません。また番組VTRでは、叱られたことがない若者のデータを持ち出した文脈にも疑問を抱きました。

叱るという行為は、とても高度な技術が要るもので、大体の人はほぼ確実に独善的なものになり、相手に不快感やダメージを与えます。

臨床心理士の村中直人さんは、NHK解説委員室「『叱る』ことの限界と依存性」という記事で以下のように指摘しています。

〈叱る〉という行為には叱る側のニーズを強く満たす側面があり、人は叱らずにはいられない、依存的な状態におちいってしまうことがあるということです。
(中略)
結論から申し上げると、「相手の学びや成長を促進する」という意味において、叱るにはほとんど課題解決の効果はありません。


それに、「叱られたい!」なんて人は見たことがありませんし(同様の声はSNSでも散見されました)、叱られれば人は成長できるものでもありません。まるで若者が叱られたがっているかのような印象操作、めちゃくちゃ迷惑です!

 

一方で、「最近の若者は叱られたらすぐ辞める」、みたいなこともよく聞きますよね。いや叱られたら辞めるって言ったり、叱られなかったら辞めるって言ったり、どっちなんだよ、とツッコミたくなります。

 

そもそも、ホワイトを「ゆるい」と言い替えること自体、ナンセンスだと思います。
今がホワイトすぎるのではなく、今までがブラックすぎたのであり、やっと長時間労働の見直しや労働環境の改善、ハラスメント対策が行われ、少しだけ「マシ」になってきただけの話。

まだまだブラックな会社なんていくらでもありますし、日本の職場環境、労働条件は引き続き改善されていかなければなりません。それに逆行するようなことを言わないで! と改めて思います。事実、「ホワイトすぎるんだよね〜、うちの会社」とため息をついている人は見たことがありませんよね。「ブラックすぎてつらい!」ならしょっちゅう聞きますが……。

労働条件や環境を整えるためには会社に体力が必要で、必然的にホワイト企業=大企業が多くなるのではないでしょうか。そんな会社であれば、仕事のスケール感も必然的に大きくなるため、やりがいも感じやすくなるはずです。そう考えると、ますます「ホワイトすぎて辞める若者」って妖精か何かですか? と言いたくもなります。

逆説的に考えれば、ブラックだと疲労やストレスで「将来について考えるゆとり」さえ搾り取られてしまいますが、ホワイトな会社の場合、将来性や働きがいについて考えられる余白が生まれ、もっと成長を感じられる場所を求めるようになる、と言えるのかもしれません。