時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会現象について小島慶子さんが取り上げます。

愛は地球を救わないし、永遠でもありません。それは皆さん薄々気づいているでしょう。中年ともなればほぼ体験的な事実です。なのになぜ、愛の物語はこんなにも好まれるのでしょうか。どうして私たちはこんなに諦めが悪いのか。先日久々に映画館で立て続けに2本の作品を見て、改めてそんな思いを強くしたのでした。

 

1本目は、今年のゴールデングローブ賞で2部門受賞、アカデミー賞では作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞など7部門で受賞した『EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE』(以下エブエブ)。ダニエル・クワンとダニエル・シャイナート(通称ダニエルズ)が脚本と監督を手がけた作品です。舞台はアメリカのとあるコインランドリー、主人公はミシェル・ヨー演じる中国系移民の中年女性。彼女が世界を救います。超宇宙規模の混沌の中に平凡な生きる悩みが詰まっている、すごくふざけた設定の案外真面目な映画です。

「あの時違う選択をしていたら、あったかもしれない人生」に思いを馳せたことや、家族が大事なんだかうざいんだかわからなくなった経験は誰しもあるはず。それに納税義務と、全ての宇宙を呑み込む虚無をカンフーで倒すミッションが加わったと思って下さい。何のことだかわからないでしょう。でも泣きましたよ、私。我ながら驚きました。