雇用保険制度を使ってお得にスキルアップ


2022年10月、岸田首相は臨時国会における所信表明で、「学び直し支援に5年で1兆円を投じる」と発言しました。この発言の通り、人生100年時代を見据えたスキルアップのための学び直し支援は、国を挙げて行われています。

今回の相談者・美奈代さんは、学び直しをするにしても資金的に厳しいかもしれないとのことでしたが、その場合は厚生労働省の「教育訓練給付制度」を活用してみてはいかがでしょうか。

教育訓練給付制度は雇用保険の給付制度の1つで、働く人々の能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図ることを目的に創設されました。厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されます。1998年からの約20年間で、延べ350万人が利用してきました。

 

教育訓練給付を受けるには、雇用保険の加入期間などの条件がありますが、パート・アルバイトや派遣労働者の方も対象です。

給付の対象となっている講座は、なんと約1万4000! レベルなどに応じて「①専門実践教育訓練」「②特定一般教育訓練」「③一般教育訓練」の3種類があり、それぞれ給付率が異なります。たとえば「①専門実践教育訓練」を3年間受講して無事資格を取得し、その資格を活かした職業に就いた場合は最大168万円支給されるのです。

【教育訓練の種類と給付率】
①専門実践教育訓練:2584講座
最大で受講費用の50%(年間上限40万円)を支給。ただし資格取得し、かつ訓練修了日から1年以内に雇用された場合は受講費用の70%支給(年間上限56万円)にアップ
介護福祉士、社会福祉士、キャリアコンサルタント、MBA、看護師、歯科衛生士、調理師、美容師など

②特定一般教育訓練:484講座
受講費用の40%(上限20万円)を支給
大型自動車免許、税理士、社労士など

③一般教育訓練:11177講座
受講費用の20%(上限10万円)を支給
英語検定、簿記検定、ITパスポート、インテリアコーディネーターなど

※講座数はそれぞれ2021年10月時点
 

給付対象の講座にはどんなものがある?


最も受講者数が多くポピュラーなものが「③一般教育訓練」で、2020年度実績では8万9011人が受講、次いで「①専門実践教育訓練(2万9404人)」、「②特定一般教育訓練(1647人)」となっています。この数字を聞いて、思ったより少ないと感じた方もいるかもしれません。実際、自民党の小泉進次郎議員は「教育訓練給付金をはじめとした生涯教育には国から相当な助成が出ているが、あまり知られていない。せっかくの制度をもっと活用してもらいたい」と数年前のインタビューで話しています。「①専門実践教育訓練」は制度開始が2014年10月、「②特定一般教育訓練」は2019年10月なので、知らない方も多いかもしれません。

この教育訓練給付制度は雇用保険の1つと先述しましたが、雇用保険がカバーしているものは、他に「失業手当」「育児休業給付金」「介護給付金」などがあります。私たちはその一部を月々の給与から天引きという形で負担しているにも関わらず、多くの方は使う機会がなく、恩恵を受けていないかもしれません。そこで誰でも使えて必見なのが、教育訓練給付制度なのです。

講座の具体的な内容は、こちらの「教育訓練講座検索システム」で検索してみてください。通信教育講座大手のユーキャンでは30講座以上が給付対象で、同社の人気資格ランキング10位以内にランクインしている「医療事務」「調剤薬局事務」「食生活アドバイザー」「ファイナンシャルプランナー」「宅地建物取引士(宅建士)」なども含まれています。

2025年3月までの限定で基本給の8割が支給される制度も


期間限定にはなってしまいますが、2025年3月まではさらに手厚い「教育訓練支援給付金」というものも用意されています。45歳未満でなおかつ失業中の方は、離職前の月額基本給の80%相当(上限あり)が、受講中に支給されるというもの。

先ほどご紹介した中の「①専門実践教育訓練」だけが対象で、2025年3月31日までに受講を開始すること、昼間に通学することなどが条件となっています。
 

「70歳まで働く」が当たり前の世の中に


少子高齢化に伴う労働力不足は深刻な社会問題です。高年齢者の雇用促進を目的とした「高年齢者雇用安定法」では、希望する方を65歳まで雇用するよう企業に義務付けるなど、高齢者が働き続けられる環境整備を事業主に求めてきました。

2012年の改正では「65歳」がキーワードでしたが、2021年4月施行の高年齢者雇用安定法では「70歳までの就業確保措置」が事業主の努力義務となっています。このままでは、近い将来「70歳まで働く」が当たり前の世の中になっていくかもしれません。

貯蓄や年金だけ老後暮らしていけるのか不安であれば、長く働き続けることが選択肢となります。そのためにはスキルは重要です。スキルアップはいくつになっても遅いということはありません。今から自分の強みを磨くことが、70歳まで働くキャリアへとつながるのです。

今回は厚生労働省が行う教育訓練給付制度を中心に紹介しましたが、他にひとり親の経済的自立を支援する「高等職業訓練促進給付金」や今後のキャリアについてキャリアコンサルタントに無料で相談できる「キャリア形成サポートセンター」など、学び直しを後押しするさまざまな公的制度が用意されています。

人生100年時代を力強く生き抜くためにも、使える制度はできる限り活用して、自分らしい人生を歩んでみてはいかがでしょうか。


構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
イラスト/Sumi
編集/佐野倫子

 

 

 

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