苦しみに蓋をして、ニコニコしていることに慣れている自分がいた

――映画を拝見して、傷の修復という言葉が浮かびました。坂口さんは自分自身の「傷」とどう向き合っていますか。

僕は、傷ついたことにも気づかないようにしている自分がいるんですよね。肉体的なことで言えば、整体に行くとめっちゃ怒られるんですよ、「なんでこの状態になるまでほっといたの」って。そう言われるまで、自分では気づけない。自分の抱えているものに目を閉じてしまう自分がいて。それは肉体的なことだけじゃなく、精神的な面でも同じかもしれない。

 

――たとえば、どういうことでしょう。

自分の中で思い出みたいなものがトリガーになってるところがあって。いつもは蓋をしてるんですけど、時々トリガーを引いてしまわなきゃいけない場面にぶち当たると、そこで感情が一気に出てしまうんですね。

――以前、撮影中に涙が止まらなくなったというお話をされたこともありましたよね。

ありましたね。なんでそこに蓋をしてるのか、自分ではもう理由もよくわからないんです。きっと苦しいことがあったんだと思う。だけど、もう蓋をしてニコニコしてることに慣れちゃった自分もいたりして。

――そういうお話を聞くと、坂口さん自身にもどこか自己犠牲的なところがあるのではないかと心配になります。

そうですね。僕も、本当に苦しかったときの記憶はもうないんですよ。時間を経て、ようやく今はそこから脱することができたというか。ちょっとずつちゃんと温度を持てるようになってきたなと感じています。

 

――どういう変化があったのでしょうか。

自分の内面を出すことの楽しさをようやく覚えてきたからかな。もともと僕はすごくおしゃべりなんですね。でも、この仕事を始めてから、長い間、人と関わるときもどこか一歩二歩引いて俯瞰している自分がいて。それが最近は心のささくれだったりを、人に話すようになった。それで、解消しているところはありますね。

――人に話すってセラピー効果がありますよね。

生きていると何かしら深く傷つくことはあって。みんなそうだと思うんですよね。何もなかった人なんていないし、みんな何かを持っていて当たり前。なのに、それを表に出さないのが当たり前みたいになっちゃってたりするじゃないですか、世の中って。

僕はしんどいときはしんどいって言った方がいいと思う。それは別に甘えてるわけではなく。誰かを頼ったり、自分じゃない誰かを必要とすることってすごく大事なことだと思うから。

だから、現場でも疲れたら疲れたって言います。そこで、みんな疲れてるんだから疲れたって言うなよという意見もあるかもしれないけど、そうじゃなくて。みんな疲れてるのに疲れたって誰も言えないから、どんどん疲れが溜まっていく。そこで僕みたいに言える人が言ったら、じゃあどうしようかという動きになる。その方が絶対代謝も良くなると思うんですよね。

しんどいときはちゃんとしんどいって言おうというのは、今、大事にしているテーマのひとつかもしれない。