驚異のダブルワークで離婚を目指す


由真さんは、介護がなくなって時間ができたという体裁で、「若くて働けるうちに働きたい」と夫にアピールします。平日の夕方からと土曜日に、託児ができる少し離れた病院で看護師として働きはじめました。

その行動を見たクリニックのスタッフは、語らずとも由真さんが何を目標にしているのかを察してくれて、さりげなくサポートをしてくれたと言います。それまで親身になって彼らのために動いていたことを、全員が感じてくれていました。

1年後、なんとか貯金が400万円になったところで、由真さんは賃貸アパートを契約。夜逃げのように別居して身の安全を確保してから、「離婚してほしい」と告げました。最初はぽかんとして、次に烈火のごとく怒ったという修さん。その姿は、飼い犬に手をかまれた飼い主そのものだったと由真さんは語ります。

 

息子の親権は渡さないと修さんは主張しましたが、由真さんは集めた浮気や暴力の証拠を突きつけます。浮気はその時点でも続いていたそうで、1年ほど揉めたのちにDVの件と合わせて500万円の慰謝料と親権を手にしました。

 


「離婚することになりましたが、不思議なもので、夫や義母を恨む気持ちはもうありません。結婚してしまった責任は、私にもあると思うから。若くて世間知らずだったせいで付け込まれてしまった部分があります。もっと慎重に考え、自分の常識や性善説で判断するべきじゃなかったと思います。

辛いことも多い結婚生活でしたが、息子と出会うことができたし、なんだかんだと看護師としてのスキルは現場で上がりました。この仕事が天職なんです! それは元夫には奪えない。息子と仕事があれば、何度でもやり直せる。今はそんなふうに思っています」

結婚生活における究極の困難や苦境から脱するために必要なのは、生計を立てる手段と、心の健康なのだと強く感じました。そのふたつがあれば、自分が蔑ろにされている、踏みつけられていると感じたとき、次の一手を打つことができます。

これを読んでいる方も、困難が続くことで感情が平坦になったり、攻撃されてもどこか他人事のように感じ始めたら、できる限り休息を取り、悩みの原因から距離を置くか、誰かに相談したりすることを考えてみてください。

ご自身の力で人生の方向を修正した由真さん。息子さんと一緒に心の健康を保ち、存分に天職に邁進されることを祈っています。
 

写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙

 

 

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