子どもが親を選べないなら、社会が親を選べばいい。そんな考えの元、親になるためには「資格」が必要となった社会が舞台のSFファンタジー『星屑家族』は、子どもと親の幸せとはどういうものかについて考えさせられる作品です。

『星屑家族 上』 (ビームコミックス)

20××年、少子化が加速する一方で、ネグレクトや虐待が社会問題になっている世界。政府は扶養審査法を成立させ、「子どもを扶養する」ことを免許制にしました。「扶養審査」で、養育環境や人間性など親になるのにふさわしいかどうかの審査が行われます。

 

子どもを持つことが「正しい」この社会で「扶養審査官」のヒカリは、親になりたい大人たちを日々審査しています。
彼らは、審査の対象となる大人を試す行動をして彼らが感情に任せて暴力を振るわないかチェックしたり、人間性に問題のある大人から酷い目に遭ったりするのです。

 

ヒカリが新たに派遣された夫婦は、これまでの審査で「不可」ばかり。よほど問題があるのだと感じる彼。

神社の裏手に住むこの夫婦の夫・大喜(だいき)は会うなり、「審査失格にしてほしい」と妙なことを言います。

 

親になり、子どもを育てるという「正しさ」の枠から自ら外れようとする彼が、ヒカリにはよく理解できません。

後から現れた妻・ちさはヒカリに優しく接し、とても子ども嫌いには思えません。

 

夫婦がヒカリを神社に連れて行った時、近所の人が、二人が見知らぬ子ども=ヒカリといるのに気づくと妙なことを言いました。

 

顔色がさっと変わるちさをフォローする大喜、これはどういう意味なのか⋯⋯?

神社を出ると他の近所の人たちも夫婦とヒカリを見て、こそこそ何かを話しています。

夫の「子どもが嫌い」発言、「血は争えない」の言葉に顔色が変わった妻、近所から白い目で見られていること、この夫婦には何かあると思うヒカリでした。
 

幼い頃からちさを見つめ続ける大喜の愛


大喜とちさは幼馴染みでした。でも、昔の写真を見るとなんだかちさの雰囲気が違いました。

 

ちさは端っこでみんなから視線を外した暗い表情。大喜だけが彼女の存在を認めるかのように手を繋いでいます。
そういえば彼はいつもちさを守るような態度でした。近所の人から白い目で見られている時も。
そんな彼をちさはこう言います。

「⋯⋯そんな優しい人だったから、私の手も離してくれなかった」

大喜がちさに優しさを与え続けている理由とは?
そこにはちさが背負っている重い過去がありました。
 

「親のいない子ども」と呼ばれるヒカリ


「扶養審査官」のヒカリは、さまざまな家庭に派遣され、大人たちから本当の子どものように扱われます。でも、彼らが求めているのはヒカリ自身ではなく、「子どもを持つ資格」。普通の子どもである女の子に、こう言われて彼は一瞬止まります。

 

自分たち審査官は本物の子どものように、親からの愛を与えられることは決してない、という事実を突きつけられたような顔に見えます。
⋯⋯彼はいつも孤独なのです。
 

扶養審査法で不幸な子どもは本当にいなくなったのか?


扶養審査法で、虐待される不幸な子どもが減少した理想の社会。ですが、そんな社会を作るために、扶養審査官の子どもたちは犠牲になっていました。
本物の子どものような生活をしなくていい代わりに、その命は一生政府に使われます。

 

彼が欲しかったものは何だったのか、はっきり自覚してしまうシーンは哀しみに満ちています。

大喜とちさ夫婦を見て、「子どもを持つ正しい夫婦」以外の幸せの形を知ったヒカリ。夫婦は審査に合格するのか。そして、ヒカリはその時何を思うのでしょうか。

ラスト近くで「扶養審査官」の真実が明かされた時、数年後、本当にこんな法律ができてしまうのではないだろうか、とゾクっとします。この作品は来たるべき世界を予知しているのかもしれません。

 

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<作品紹介>
星屑家族 上』『星屑家族 下
幌山 あき (著)

あなたには、親になる「資格」がありますか? 家族を「許可」するのは、子ども。
「扶養審査官」という名のもとに、子どもたちが親を審査する。子どもを持つ事が免許制になり、人々は「理想」の社会を手に入れた。「扶養審査官」のヒカリは、日々、親たちの審査を繰り返すうちに、ある日、訳アリの夫婦と出会う。家族のカタチを見つめなおす、SFファミリーストーリー。

作者プロフィール
幌山 あき

代表作は、『星屑家族』 『マーブルビターチョコレート』(いずれもKADOKAWA)など。
Twitterアカウント:@porosanba


(C)幌山あき/KADOKAWA
構成/大槻由実子
編集/坂口彩