「人権のレンズ」で物事を見られるように

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――『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別』(集英社新書)の読者からは、どんな反響がありましたか。

藤田 この本を書いたときは、国際社会から見て日本はこんなこと言われているんだよ、ここを頑張らなきゃいけないんだよ、っていうことを認識してねという思いで書いたんです。だから「人生の役に立ちました」というぐらいの反応をいただければいいと思っていて。でも、実際はとても切実な反応が色々ありました。

ある人は自分よりも強い立場にある人との人間関係でつらい思いをして、人間不信ですごく苦しみ、自己責任を強調する社会の風潮の中で、その問題に対応できない自分を責め続け、社会生活もままならないぐらいだったそうです。そんな方が私の本を読んで、「自分は悪くないんだ」と気づいたそうです。自分は話を聞いてもらう権利があるはずだ。自分の問題は自己責任じゃないんだとわかって、すごくエンパワーされたっていうんですよね。

また別の人は児童虐待を受けてきて、「お前なんか生まれてこなきゃよかったんだ」と言われて育ったそうです。精神的にもいっぱい苦しいんで、貧困に陥って生活保護も受けながら大変な生活をしてきた。そして私の本で人権について初めてちゃんと知って、「自分にも価値があるんだ」「自分には尊厳があるんだ」と気づくことができたと言ってくれました。

イギリスで人権の専門家などからは、人権は人々に希望を与え、エンパワーメントできる、ということを聞いたことがありますが、それを目の当たりにしました。みんな、本来あるべき権利や尊厳を知らないんです。拙著がきっかけで、人権とはなんぞや? というところに気づかされたという声は嬉しい反面、誰にでも人権があるということについて、それだけ知られていないのだなと、ショックでもありました。「国際人権」という言葉がもっと普通に使われるようになってほしいですし、「人権のレンズ」で物事を見られる人が増えてほしいと思っています。

 

藤田早苗(ふじた さなえ)さん
法学博士(国際人権法)。エセックス大学人権センターフェロー。写真家。同大学で国際人権法学修士号、法学博士号取得。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。大阪府出身、英国在住。特定秘密保護法案(2013年)、共謀罪法案(2017年)を英訳して国連に通報し、その危険性を周知。2016年の国連特別報告者(表現の自由)日本調査実現に尽力。2023年日隅一雄・情報流通促進賞奨励賞受賞。著書に“The World Bank, Asian Development Bank and Human Rights“ (Edward Elgar publishing)。


インタビュー前編
人権は誰が守る?日本は人権後進国?今こそ知っておきたい「人権とは何なのか」【藤田早苗さん】>>
 

『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別』
著者:藤田早苗 集英社新書 1100円(税込)

国際人権とは何か? 日本では人権は守られているのか? 政府は「人権を保障する義務」があるにもかかわらず、じつはそれが守られていないこともあるという。生活保護のアクセスのしにくさが抱える問題、国連から問題視されている秘密保護法・共謀罪、国際人権法に反する日本の入管法など、国際人権の視点を通して日本の現在地を知り、望ましい社会とは何かを考えるきっかけになる一冊。


取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵