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さて今回は、昨今の世の中にある「無神経」の正体について。
自民党・松川るい氏をはじめとする女性局のパリ観光ツアー? あれも相当な無神経ですが、それはまた次回。今回は別のお話を。

 

昭和世代は8月になると、どうしたって原爆の日と終戦記念日を思い出します。
私はそもそも映画ライターなのですが、今年はこれに絡んだ「#Barbenheimer」という騒動が持ち上がり、映画業界を中心に世の中を騒がせました。
「#Barbenheimer」というのは何かっていうと、アメリカで同じ日に公開された2本の大作映画『バービー』と『オッペンハイマー』を組み合わせた造語のハッシュタグです。

騒動の始まりは、この二つの画像ーー「明るくハッピーなバービー」と、科学者オッペンハイマーが作り出した「原爆」を組み合わせたファンアートが、アメリカのファンによっていくつもツイッター(正式には「X」ですけど、わかりにくいんでここはツイッターってことで)に投稿されたこと。
日本人としてはこの時点で、その無神経さに憮然とするに十分なわけですが、さらに騒動を大きくしたのはアメリカ本国の「バービー」公式アカウントが、ノリノリでこれを次々とリツイートしたこと。

いくらおとなしい日本人でも、原爆の日を目前にしたこのタイミングで黙っているはずもなく、投稿は当然ながら大炎上
配給元の日本支局とか、ハリウッドの大規模ストをかいくぐってせっかく来日した監督とか、もらい事故的に渦中に……という騒動の全貌は、いつものごとく他の記事でご確認いただくとして。


騒動が起こった背景とは?
私が興味があるのは、なんでこんな騒動が起こったのか、ということです。
そもそもアメリカでは「原爆=太平洋戦争を終わらせた兵器」としてポジティブにとらえられている、というのはよく言われることです。

ハリウッド娯楽作ではしばしば、「核兵器が盗まれた」的な大ピンチや「問題解決に核兵器を使う」みたいな展開が登場するのですが、なんだかんだ制御不能になったそれは「町から離れたところで爆発させて危機回避! よかったね!」と能天気に処理されたりします。私はそういう映画を見るたびに「こいつらアホか? 核爆発のことナメすぎだろ!」と思うんですが、つまるところアメリカ人は、原爆がめちゃくちゃ残酷で恐ろしい兵器だってことを知らないんですね。

何で知らないかっていったら、端的に言って「教えられてないから」「知らされてないから」です。もし一度でも広島平和記念館のサイトで被害者の写真を見てたり、実際の被爆者たちの出演で作った映画『ヒロシマ』や、アニメ『はだしのゲン』『この世界の片隅で』の原爆投下の場面とかを見たことがある人なら、国籍なんて関係なく、原爆を全面的に肯定するのは難しいと思います。でもそこにたどり着けるのは、特別な強い動機や興味がある人のみです。

そういう中で時がたち、戦争を実際に経験した世代が少なくなっていけば、一般的に信じられている「核兵器=ポジティブ」が優勢になっていく。ある記事では「知見の浅い若い世代がSNS担当になった場合、よく起こること」とありましたが、まさにその通りかもしれないと思うのは、日本の若い世代でも同じようなことーー国際的なスポーツイベントで、アジアで侵略の象徴としてとらえられることもある旭日旗を振ることや、思想的背景を知らぬまま軍国主義的な言葉をちりばめた曲を作ることなどーーが起こっているからです。

物事は時間的に遠くなるほど、生々しさを失いイメージとなってゆくものですが、こと戦争に関しては、国がある意図によってそのイメージを作り上げることもあると承知しておかなければいけません。「知らない」は「無神経」につながるものだし、「知らなかった」は言い訳にはなりません。鎖国なんてできるはずもない国際社会に生きる私たちが足元を見誤らないためにも、それは重要なことのように思います。

もちろんこの根底には、アメリカ人の日本人に対する差別意識もあるでしょう。それがいわゆるユダヤ人や黒人への差別意識と少し異なることも、アジア系としては知っておきたいところです。もし「第二次大戦のユダヤ人虐殺」に対して同じことをしたら、ユダヤ人は絶対に、絶対に、絶対に、許しません。アメリカ人が彼らに神経を使うのは(もちろん彼らがアメリカの資本を握っているのもありますが)、それがわかっているからです。

転じてアジア系。
アメリカではよく「模範的なマイノリティ」と言われるのですが、それはアジア系が、勤勉で、従順で、過度に要求しないから。バイデン大統領に「やれ」と言われれば従順に従い、上から肩を組まれて嬉しそうな岸田さんとか、まさにそういう感じですが、つまりは何をされても文句を言わず従順な相手に気を遣う人なんていないってことでしょう。だからこそ今回の炎上によって本国からの謝罪を得られたことは何よりでした。

ネット上に不支持や不満があふれても、自国政府に完全に無視され続けている日本人の、久々の成功体験として。何はともあれ、文句は言ってなんぼなんですから。
 

 

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