苦手なことにしがみつかず、現状を手放す勇気をもつ


学歴なし、スキルなし、地方在住で子育て真っ最中。毎日ママチャリの前後に息子たちを乗せて職場まで行き、託児所に預けて、楽しくヤクルトの販売をするのが30歳のころの私の日常でした。ところが、山本文緒さんのエッセイに書かれていた「OLから作家になった話」に感銘を受け、方向転換。実力はともかく「自分も書くことを仕事にしたい」と未来に向けて旗を立てました。

その後、広告代理店で編集のアルバイトをしながら出版社に手紙を書き、愛読していたインテリア雑誌から電話をもらったのがライターの始まり。

そのご縁は思いがけず20年も続き、毎号締め切りに追われながらも充実した日々を送っていました。

ところがなんと、部屋を片づけて自分と向き合ったことで、ライターとして働くことは、自分にとっては苦しいことだったと気づいてしまったのです。

 

ライターは文章を書くことだけが仕事ではありません。取材先の方やカメラマン、出版社の編集者、ときにはクライアントと連絡をとり、調整するのも大切な業務。でも元来、気をつかいすぎてしまう私は、事なかれ的に自分の意見を押し殺してしまい、そんな自分に自己嫌悪……というストレスを無意識のうちにため込んでしまっていました。

 

人には、もって生まれた特性がそれぞれにありますよね。苦手なことをがんばり続けると、どこかでほころびが生じて体や心のバランスを崩してしまう。私も、ここ10年ほどは必ずと言っていいほど年2回もぎっくり腰を繰り返していました。ため込んでいたストレスが腰にあらわれていたのかなと思うと、体ってなんて正直なんだろうと、ちょっと笑ってしまいます。

書くことは好き。「ライター」であることは私の存在意義でもありました。「この仕事をやめたらほかになにもできない」と思い込んでいたほど。でもコロナ禍を経たことで、その思いが根底からくつがえされました。「60歳になってもこの働き方ができる? 本当にやリたいことは?」と必死で考えて、おなかの底から出た答えは「NO」。これからは人を取材するのではなく、自分に焦点を当てて生きていきたい。まさか家の片づけをきっかけに本音が炙リ出されるとは自分でもびっくりでした。