人の感覚には大きな幅があり、一人ひとりが感じている世界はとても多様

 

平均的な感覚で作られた社会というのは、なるべく多くの人が問題なく適応できるように、だいぶ大ざっぱに作られているので、感覚が過敏だったり鈍麻だったりする人は、合わせるのに苦労することがあります。

そして、感覚の特性がある人は、特性そのものによる困難だけでなく、困難を回避しようとすることで別の困難を抱えてしまう場合もあります。

 

たとえば、初めて会ったときにずっとサングラスをしている人に対して、「この人、なんだか失礼な人だな」と感じたとしましょう。でももしかしたら、その人は視覚障害があり、サングラスを外せないのかもしれません。でもそのことを知らないと、人間関係に影響が出てしまう場合があります。

ずっとヘッドフォンをしている人も、それが音楽をずっと聴いていたいからなのか、おしゃれのためなのか、あるいは聴覚過敏があってノイズキャンセリング機能のあるヘッドフォンが外せないのかは、見ただけではわかりません。

いつもいつも同じ服を着ている人は、おしゃれの意味でそのかっこうにこだわっているわけではなく、もしかしたら触覚過敏で決まった服しか着られないのかもしれません。
 
「なぜ、この人はこういう行動をするのだろう?」と疑問に思ったときは、人の感覚には大きな幅があり、一人ひとりが感じている世界はとても多様なのだということを思い出し、相手の立場に想像力を働かせてみるとよいでしょう。

そうすると、「ああ、こういう理由だったんだな」「僕は大丈夫だから、この環境が苦手な彼に合わせて環境を変えよう」といった対応につなげていくことができます。

『カビンくんとドンマちゃん』
著者:加藤路瑛 ワニブックス 1595円(税込)

感覚過敏研究所の所長であり、自身も感覚過敏の当事者として発信を続ける現役高校生・加藤路瑛さんが、感覚過敏(カビンくん)と感覚鈍麻(ドンマちゃん)の2人が感じている困りごとを、小説仕立ての文章と解説文を交えて紹介。児童精神科医の黒川駿哉さんが監修を務めているだけに一つひとつの文章に説得力があり、読み応え十分です。自覚なく「過敏」や「鈍麻」に悩まされている人には、大きな心の支えとなるでしょう。


写真:Shutterstock
構成/さくま健太