戸惑って、自分の赤ちゃんの顔を見た。鼻……高いのかな?
「新生児でそれだけお鼻がキュンてしてたら、おっきくなったらすごいシュッとするよ」
話しかけてくれた人は、大きなピンクの花がいっぱいプリントされたパーカーを着ていて、素足に可愛いもこもこのうさぎスリッパを履いている。そのスリッパに見覚えがあった。同じ4人部屋の隣のベッドに昨日深夜に入ってきた……たしか青木さん。
35歳で初産の私と比べて、彼女はずいぶん若く見える。でもおむつ替えが魔法みたいに手際がいい。
「うちは3人目なんだ。新生児って最高に可愛いよね~。女の子が初めてだから、くんくん匂い嗅いじゃう。男の子と違って汗臭くない~」
私は、彼女が本当に愛おしそうに赤ちゃんの匂いを嗅いだので、思わず笑ってしまった。ふと、笑ったのは丸1日ぶりくらいだなと思う。
夫はタイミング悪く出張中で、なんとか出産のときは戻ってきてくれたけれど、どうしても外せない仕事で、再び札幌に行ってしまった。義母は足が悪く、義父には持病があり和歌山からすぐには来られない。
そうなると、もうここには誰も会いに来てくれない。感染症のこともあるし、友人は遠慮してくれているのだろう。
だから私は赤ちゃんと2人きりで、ひたすらうまくいかない授乳と格闘していた。思い描いていたような新生児との幸せな日々とはかけ離れているような気がする。笑顔どころか、常に眉間にしわが寄っていた。体のあちこちが悲鳴を上げているし、寝不足と緊張状態で血圧が人生で初めて140にもなった。
それがよくあることなのか、凄くまずいのかも、教えてくれる人がいなかった。
そのまま授乳室に移動し、赤ちゃんの体重を測ってから、青木さんと椅子に並んで座った。
彼女は手慣れた仕草で授乳クッションを引き寄せ、さっと乳首をくわえさせる。赤ちゃんは素直に吸い付き始めた。まるで動画のお手本のような、上手な授乳。私よりも1日出産が遅かったはずなのに、もうおっぱいも出ているようだ。
それに引き換え、私のほうは、ちっとも赤ちゃんが上手に吸い付くことができない。おっぱいも出ていないらしく、吸い付いてもすぐに離してしまう。
「またダメ……。どうしよう」
秋の夜長、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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