平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 

第32話 警官と少女

 

――すげ~、さすが噂のマンション、めっちゃ芸能人出て来るじゃん!

オレは新しい勤務地となった交番の前に立ち、周囲を見回しながら、内心では非常~にそわそわしていた。

千葉の海街で生まれ育ったオレにとって、警視庁警察官として都内で勤務するだけでも晴れがましい気持ち。高卒で警察官になるまでずっと地元の田舎道をバイクで爆走していたから、警官になって2ヵ所目の配属交番が東京都港区というだけでこそばゆい。警官になったのは白バイを運転してみたかった、というのが多分にあるのだか、ここではひたすら自転車なのは残念……。

都心なのに閑静な住宅街のこのエリア、交番の向かいには重厚な低層階マンションが建っている。その隣には緑がキレイな公園もあり、勤務中に目に入る景色は最高なのだ。

なにせこのマンション、著名人や政治家が何人も住んでいて、有名な女優さんも住んでいる。ここに交番があるのも、昔どこかのお大臣が住んでいたときに警護のために建てたものらしい。

ときどき芸能人が出入りするのを見ることもあり、ちゃっかり仕事をしながら目の保養……いやいや、悪いヤツが有名人に良からぬことをしないかパトロールしているわけだ。

――最初はこんな小さい交番いやだと思ったけど、基本1人勤務で気楽だし、暇だなんて贅沢言ったらバチが当たるよなあ。

夏の夕暮れ、蒸し暑い空気が肌を包む。都心とは思えないくらい蝉の鳴き声がジワジワと響いている。

せっせと日誌を書いていると、向かいの公園の入り口で、じっとこっちを見ている小学生くらいの女の子の姿が目に入った。

目があったので、よッ、という感じで手を挙げてみる。すると水色のスカートをはいたその子は、ぱっと駆けていってしまった。10歳くらいだろうか。

その時は気に留めなかったその子は、その日から5日も連続で、同時刻に姿を現すようになる。

6日目、オレはぶらぶらと机を離れ、その子に近づいていった。

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夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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