2050年にはがんによる死者数を超える? 私たちにできること。


山田:そうですね。色々な原因が考えられますが、一つは慣習です。つまり、風邪にもインフルエンザにも、「一応」細菌感染の可能性もあるからという理由で、あるいは「一応」細菌感染を予防しておこうという目的で抗菌薬が処方されてきた、という歴史があって、「慣れ」で処方し続けられてきた、ということです。また、患者さんの「求める声」の影響も大きいですね。「抗菌薬を処方してほしい」と求める声に応えたい、という医師側の思いもあると思います。

編集:なるほど……。私は今日知識として、「風邪やインフルエンザに抗菌薬は必要ない」と知ったので、今後は処方をお願いしないと思いますが、慣習など色々な原因があって、現在もメリットゼロの処方が続いているのですね。

山田:医師の中には、風邪の際、一定の割合で起こる細菌の感染症の合併症を予防するために処方している、とおっしゃる方もいます。ただ、予防投与に関しての有効性はそもそも示されていません。また、仮に何万人かに1人の割合で細菌による感染症の合併症が予防できたケースがあったとしても、そのケースの傍らで無用な抗菌薬を投与し続けて耐性菌を生み出し続ける、副作用リスクを何万人に与えるということになってしまいます。

編集:私たち患者側が、風邪で抗菌薬の処方をお願いしないことも大切ですね。

山田:厚生労働省が過去にデータをとっているのですが、「風邪やインフルエンザに抗菌薬が効果的だと思いますか」という質問に対し、「効果的でない」ときちんと答えられた方は、毎年25%以下にとどまっているんです。「効果がある」と答えた方が4割を超えており、わからないと答えた方が3割程度です。

編集:やはり皆さん、ご存知ないのですね……!

山田:また、耐性菌がより多く分布しているのは、四国・九州地方であるということが知られています。地域差があり、慣習が色濃く残る地域がある、ということが如実に表れているのではないでしょうか。そしてこの「耐性菌」は、日本だけでなく、世界でも大きな問題となっているのです。

現在世界中で、この「耐性菌」による死者は年間100万人程度いると言われています。2020~2021年のデータを見ると、感染症の死者としては、コロナ、結核に続く、3番目の死者数だったのです。

編集:そうなのですね!

山田:その数は年々増加し、2050年には年間1000万人に上ると予測されています。その場合、がんによる死者数を上回ることになります。一部の国では薬局で抗菌薬がフリーアクセスで買えてしまうという実情もあり、世界中で問題意識が高まっています。

編集:「耐性菌」が増えたら、その「耐性菌」に対抗するべく、新しい抗菌薬を開発すればいい、ということでもないのですよね……。

山田:そうですね。抗生物質の発見のおかげで感染症に困らなくなったので、人類の寿命は飛躍的に伸びました。抗菌薬がたくさん使用され、値段も安くなったので、製薬会社にも新しい抗菌薬を開発するモチベーションが起こりません。いずれは治療できない細菌が増えて、人類が太刀打ちできなくなる、という未来が予測されています。

編集:一度解説いただくと理解できるのですが、あまり深刻さを認識していませんでした。

山田:大切なことなので再度申し上げておきますが、風邪やインフルエンザの際には無用な抗菌薬はもらわないこと。そして細菌感染症などの治療で処方された抗菌薬は用法・用量を守ってしっかりと飲みきる、ということが、「耐性菌」を増やさないために、とても大切なんですよ。

編集:副鼻腔炎で抗菌薬を処方してもらった時、症状が改善したので服用をやめてしまったことがありました……。

山田:細菌感染症の時は、症状が改善したとしても、決められた投与期間、しっかりと治療するのが基本です。症状が良くなっても、きちんと細菌がいなくなるまで抗菌薬を飲みきらなければ、その細菌が生き残ってしまい、耐性菌へと変化してしまうのです。治療も不十分になってしまう恐れがありますので、必ず飲みきってくださいね。

編集:「ついつい」とか「なんとなく」など、大したことがないと思っている行動の結果、意外なほど重大な状況を引き起こしていることがわかりました。風邪やインフルエンザで抗菌薬を貰わらない、細菌感染症で処方された抗菌薬は飲みきるなど、今日教えていただいた基本を徹底したいと思います。本日もありがとうございました!

 

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構成/新里百合子

 


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