リベンジ幽霊


「この1カ月、晃司にとりついてあれこれ仕掛けたけど全く気がつかれないんです。このままじゃあの二人、結婚してしまいます。なんとしても阻止したいの」

「失礼ながら秋野様、生前はいろいろあったこととお察ししますが……林様はもう自分の人生を進めていらっしゃるご様子です。秋野様もあのお2人のことは放っておいて、せっかくですから自由に他のところに行かれたほうがずっと楽しいかと」

僕が老婆心ながらそう言うと、秋野様はキッとこちらをにらんだ。

「佐倉さんは何も知らないからそんなことが言えるんです。私、彼に騙されていたんです。1年も二股かけられて。沙織と結婚したい、なんて言っておいて、浮気がバレた途端、本命はあっちだからってこっぴどく振られました。彼、私のお葬式にも来なかったんですよ!? おまけにさっさとあっちにプロポーズまでして、泣き寝入りなんてできません」

 

「確かに、それはあんまりですね……。でも、酷なことを言うようですが、秋野様の事故は林様のせいではありませんし、秋野様が亡くなってしまったことは本当にご無念でしょうが、彼に執着してこの先ついて回っても、ご自身がお辛いだけではないでしょうか」

思い切って本音で話してみると、秋野様は、哀しそうな顔で言葉を飲み込んだ。

やれやれ。

ここはひとつ、乗りかかった舟、彼女のために動いてみるしかないか。

「……わかりました。それでは、秋野様のお気持ちを、この佐倉が林様にお伝えしてみましょうか」

話せる理由


夜になると、2人はドライブから帰ってきて、ロビーのラウンジでピアノの生演奏を聴きながら、カクテルを飲みはじめた。

今がチャンスだ。

私は秋野様に目くばせをすると、2人に近づいた。

「おかえりなさいませ、林様。紅葉はいかがでしたでしょうか」

「あー楽しかった! 明日は何しようかなあ」

彼女がうっとりと今日の景色を反芻するように目を閉じる。どうやら気に入っていただけたようだ。しかし秋野様はそれを見て、むっとした様子で舌を出している。もちろんお2人には幽霊の秋野様は見えていない。

「私、部屋戻るまえにちょっとそこのショップでハンドクリーム買ってくる。北海道の秋って乾燥しているのね」

ラウンジに残ったのは林様おひとり。僕はチャンス到来とばかりに、彼の前に出て、頭を少し下げ、告げた。

「林様。おかしなことを申し上げて恐縮ですが……実は、林様の後ろに、とある女性が見えます。同い年くらいの女性で、黒髪が長くて、小柄な方なのですが、どうやら林様にお伝えしたいことがあるようです」

次ページ▶︎ コンシェルジュの言葉に対して、男の反応は……!?

秋の夜長、怖いシーンを覗いてみましょう…。
▼右にスワイプしてください▼