現実にいる人たちを演じる難しさ。


――このドラマのオファーがあった時、どのようなお気持ちでしたか?

本木雅弘さん(以下:本木):みなさんがご存知のラグビー界のレジェンド・平尾さんを演じるのは、本当に畏れ多いものがありました。(自分とは)あまりにもかけ離れていて、平尾さんには特異なオーラがある。だから、躊躇する気持ちがあったのが正直なところです。ドラマのビジュアルが発表された時、「本木が平尾さんに似ている!」といった反応がSNSにありましたが、エゴサーチしてみると、『本物の方がよっぽど魅力的であることが明らかになった』というコメントを見つけまして、本当にそうだな、と思いました。私は平尾さんと直接お会いしたことがなかったのですが、もしお会いしていたら恐縮しすぎてできなかったかもしれなかったです。

石田ゆり子さん(以下、石田):このお話をいただいた時、本木さんと滝藤賢一さんがあのお二人を演じると知って、なんとかご一緒したい、すごく素晴らしい作品になる! と勝手に確信しました。私が演じる、平尾さんの妻の惠子さんは現在もいらっしゃる方。その方に失礼があってはいけないし、私で本当にいいんだろうか? と思いましたが、ぜひやらせていただきたいと思いました。

――撮影にあたって、山中伸弥教授や惠子さんなどの関係者の方々には会われたのですか?

本木:山中先生は撮影終盤に現場に来てくださいました。先生と二人になった時に、「平尾さんは本当に明るく過ごされていたんですか? 山中先生に垣間見せた翳りみたいなものはありましたか?」とお伺いしたんです。そしたら山中先生は、「冗談抜きで、これは死にゆく人の病室か? というくらい最後まで笑いの絶えない空気感だった」っていうんですよ。これには驚きました。

妻の惠子さんやお子さんたちには、神戸の灘浜グラウンドでのロケでお会いしました。このドラマ化にあたり、惠子さんは半年以上悩まれて決断してくださったらしいのですが、実際に撮影が始まるとご協力くださるようになりました。その流れで平尾さんの遺品をお借りすることができ、撮影でも着用させていただきました。惠子さんはしっとりとおきれいでかわいらしいところがあるのですが、芯の強さも感じるんです。それが、石田ゆり子さんにすごく似ていると思いました。

闘病生活を演じるにあたり、自然体で明るく、といってもどういう加減で表現するかはすごく悩みました。明るくしすぎると、頑張っている感が強まってしまいます。平尾さんは“頑張る”ことを一番苦手とされていたので……。惠子さんに「病室で、どんなトーンで話されていたのですか?」とお聞きしたら、「せいちゃん、けいちゃん、って呼び合って、すごく柔らかく、優しく話すんですよ」っておっしゃっていました。柔らかく言葉を投げる、というのは自分の中では平尾さんのイメージとしては新鮮な感じがしたので、一つのヒントと思って演技にも取り入れました。

 

石田:実は、私は惠子さんにお会いしていないんです。ご本人にお会いすることが果たしていいことなのかわからないこともあり、私は人づてにみなさんから惠子さんについてお話をお伺いして、イメージをふくらませる感じでした。「私は主人のことが大好きなの」ってはっきりおっしゃられる方と聞いて、平尾さん演じる本木さんのそばにいて、その感じをどうしたら出せるかな、と悩んでいました。でも、本木さんが本当に、いらっしゃるだけで平尾さんになっていたので、ぞくぞくっとしました。

 

本木:石田さんは、役として惠子さんを表現するにはセリフも少ないし、本当に大変だったと思うんです。でも、どんなに悲しい場面でも安易には泣かず、ご本人の包容力(優しさ)が出ていたと思います。直接言葉は交わさなくても、お互いに感じていることのキャッチボールができていて、柔らかくしなやかで強い、といった雰囲気をイメージしながら演じることができました。私も撮影中に、にわか“ゆりゆりファン”になって、石田さんのインスタグラムをチェックしたり、大橋トリオさんプロデュースで出されたアルバムを聴いたりしました! アルバムに入っていた「うたかた」っていう歌が好きだったので、撮影中、二人で車に乗っている時に急に歌い出したりしました。平尾さんは愛嬌のある人で、茶目っ気があったというので、私もそんなことをしてみたんです。

石田:確かにその瞬間、私も幸せでした。愛されている感がありました!