「同じグループは絶対に避けたい……」


333という受験番号が書かれたゼッケンをつけて、その子はぽつんと控室の端に座っていた。同い年くらいだろうか。背の高い子で、みんな同じサイズのはずのゼッケンが小さく見えた。

手足の長さが群を抜いている。

髪の毛は無造作なショート。形のいい頭と輪郭。他の受験者が自分をもっとも魅力的に見せるためにシンプルだけど趣向をこらしたレオタードを着ているのに対して、彼女はそこらへんの中学校のジャージのようなものを着ている。

歳は同じくらいだろうか。化粧っけもない。他の子はダンスシューズだけど、彼女は上履きを履いている。まるで学校の体育だ。

それなのに、私は彼女から目を離すことができなかった。

 

あの鼻筋。整った口元と顎。舞台メイクをしたら、どれほど映えるだろう。

あの骨格も、古典的なヒロインは難しいかもしれないが、俳優として途方もない可能性を秘めている。

私ははっとした。私の受験番号は338。1次と2次試験で、すでに受験者は5分の1程度になっているはず。

――もしかして、同じグループで試験を受けるかも……!?

とっさに、脇がじわっと汗で濡れた。

彼女の技術は知らない。しかし、彼女が動けばきっと、審査員は注目するだろう。勝手に目が吸い寄せられるはずだ。そして私は脇役。ただでさえ、152センチの身長はミュージカルの舞台では少々小さいだろうと言われていた。

それでも、ヒロインは小柄なほうが相手を選ばないはずだと自分を鼓舞してきた。けれど、彼女のようなスタイルの人の隣では、全てが言い訳。

――どうしよう……。

でも、受験番号は今からどうすることもできない。最終演技は15分後に迫っている。あとは彼女が辞退でもしてくれない限り……。

視線が外せないまま、333という番号を見ていると、彼女はペットボトルの水をごくごくのんで、テーブルにそれを置き、控室を出ていった。お手洗いだろうか。

「やっぱり合格してる、333。ダンスも歌もド素人の癖に、やっぱり芝居であれだけ稼ぐと受かっちゃうんだ……。でもまたあんなダサい服着て、なめてるとしか思えないわ」

「莉子、多分同じグループだよ? ちょっとヤバくない? なんとかしないと」

ロッカーの死角でストレッチをしていた2人が急にそんなことを話し始めて、私は一瞬自分の心が読まれたのかと思ってぎょっとした。