南海トラフ巨大地震で懸念される「津波」に、最新テクノロジーで立ち向かう


南海トラフ巨大地震で最も懸念されるのが「津波」ではないでしょうか。というのも、自然災害で最も多くの犠牲者を出しているのが津波だからです。2011年に起きた東日本大震災の後、全国には「津波避難タワー」が500棟近く建てられたり、「命山」と呼ばれる自然を活かした避難マウンドが設置されたり、企業の高層ビルを避難ビルとして指定したりと、様々な津波対策がとられてきましたが、果たして高齢者がタワーの階段を登りきることはできるのか、大きな揺れに見舞われた人々がそれらの避難場所まで無事にたどり着けるのかどうかは未知数だといいます。

そこで、猛烈な揺れと津波が発生した時の状況を想定して進められているのが、スーパーコンピューター「富岳」や人工知能(AI)を活用した津波シミュレーションと、それを基にしたアプリ開発。具体的には下記のような活用を考えているそうです。

「富岳には約2万件の想定津波シナリオが入り、地図上の3メートル間隔でいつ、どこに、どのくらいの浸水があるのかを数秒で予測する。都市の津波は複雑な動きをする。津波からの避難は沿岸から離れることが原則であるが、都市域での津波の来襲方向は予想外になる。河川を逆流した津波が橋でせき止められたり、陸側からの津波が浸入することもある。さらに、幅員の広い道路を通り、路地を遡上。密集した建物の間を猛烈なスピードで波が迫ってくることも想定しなければならない。スマホがあればリアルタイムで予測を見ることができるうえ、登録した人同士が写真やコメントで危険箇所を知らせ合ったり、逃げ遅れた人がわかったりする仕組みがあるといい、3年後の実装を目指しているという」

写真:Shutterstock

油断は禁物。対策が進化しても人間の心に落とし穴が


また、移動が困難な高齢者が自力で逃げられるよう、小型モビリティの開発も進められています。

「少子高齢化社会のもとでは年を追うごとに助けを必要とする人が増え、助ける側の人手は減っていく。小型モビリティは普段での活用があるが、路面の状態が悪くても運転ができるようにするなど災害時にも適用できる開発を目指している」

このように最新テクノロジーを駆使して画期的な避難方法が生み出されるのは頼もしい限りですが、その一方で著者の宮地さんは人間の心の中に落とし穴が潜んでいることを指摘します。

 

「最も危険なのは、防潮堤があるから津波はここまで来ないだろうと安心してしまうことだ。地震が想定より大きければ防潮堤に亀裂が入ったり、津波で漂流した船がぶつかってダメージを受けることもある。先に触れたように、津波から身を守るためには『1分でも早く、1メートルでも高く』避難することが欠かせない。そのためには、いつでも避難できるだけの準備と避難先の場所を想定し、最新の情報にも注意していくことが求められている」

まさに油断大敵。地震や津波といった自然災害に対して常にアンテナを張っておくことが、自分の命を守る最善の手段なのかもしれません。