本妻と愛人、夫の修羅場が始まったけれど…


普段は温厚で控えめ、夫を尊敬し支える妻。そんな印象が強い楓さんですが、このときはさすがに大声を出し、夫を責め続けるという修羅場と化したそうです。

「あんなに歯止めなく怒りが込み上げたのは、おそらく人生であの一度きりです。やはりあまり細かいことは覚えていませんが、手元にあったものを夫に投げつけたし、暴言が勝手に口から出てきて……酷い夫婦喧嘩になりました。

でも夫は『君は絶対に妊娠したくない、他で作っていいと言ったじゃないか!』の一点張り。相手の女性について問い詰めると、東京の夜のお店で出会ったとか、20代の女性だとか渋々ではありますが素直に答えました」

そのとき夫はすでに相手の女性を養っており、彼女は都内のマンションに1人で暮らしていたそう。感情的になっていた楓さんは、勢いでその女性と夫の忠志さん、そして楓さんの3人の話し合いの場を設けるよう、その場で夫に連絡をさせました。

 

「聞けばもう相手の女性は安定期をとっくに過ぎており、もうどうしようもない状態でしたが……私も混乱状態で、相手がどんな顔をしているのか見たい、謝罪させたい、それに訴えてやろうとか、家庭は絶対壊させないとか、とにかく気持ちが逆立っていました」

話し合いの場は妻に言われるまま忠志さんが設定しましたが、「妊婦に遠出はさせられないから」と、都内のホテルのラウンジまで楓さん夫婦が出向く形になりました。

 


「そこにいたのは若い妊婦さんです。キャバクラで出会ったと言っていましたが、特に派手な印象もない普通の女性だったのは意外でした。対面しても視線を合わさず無表情のまま俯いているので『この通り、夫には家族がおりますが、どういうおつもりですか?』とこちらが口火を切ると、彼女は思ったよりしっかりした口調で答え始めました」

彼女はまず、楓さんの家庭に迷惑をかけるつもりはないとはっきり宣言したそう。

少し複雑な家庭で育っており、もともと結婚願望もなかった。けれど子供は欲しいと思っており、忠志さんとは利害関係が一致しただけ。そして驚くことに、彼女は特に認知も望んでいないと言ったそうです。

「いろんな意味で衝撃でした。若い女性と聞いていたので、夫のお金目的か、最悪妻の座を奪おうとしているんじゃないかとか考えていたんです。しかし彼女は何というか、かなり自立した女性のようで、恋愛感情も一切持っていないし、私がそんなに嫌なら、夫の援助がなくてもいいとまで言い切ったんです。

逆に私が心配になり、夜の仕事でシングルマザーなんて……と思わず口にすると、昼間も仕事をしているから大丈夫だと。聞けば自営で美容系の仕事をしているとのことで。最終的に、私が1人怒っているのが恥ずかしいような気分になってしまいました」

世の中にはこれほど割り切って子どもを産む女性もいるのかと、楓さんは思いがけず衝撃を受け、何も言えなくなってしまいました。そもそも原因は自分の夫でもあり、その夫すら大して必要なさそうにしている若い妊婦を攻撃する気も失せてしまったのだそう。

もちろん腑に落ちない気持ちはありつつも、さすがに子どもを堕させるという選択肢も元々なかったため、それ以上なす術もなく、楓さんは結局「放置」という選択をしました。