――LGBTQへの理解が進んでいる国と比べると、日本ではどのように感じていますか。

西村:マスメディアなどを通じてLGBTQ当事者の人たちが前向きなとらえかたで紹介されるようになってきたのは、だいぶ以前とは変わってきたなと実感しています。それは私自身の自己肯定感にも繋がっています。歴史というのは必ずしも良いことばかりではなくて、三歩進めば二歩下がることもある。そうやって社会情勢を乗り越えて進んでいくのだととらえています。

 

――まだ偏見が残る社会で、LGBTQ当事者だと隠さないで発言するのは勇気がいると思います。

西村:私が媒体やメディアを通して発信することで、少しでも世の中の価値観を変えていきたい。自分の仲間や大切な人たちがないがしろにされるような世の中はおかしいと伝えていきたい。私は、周りからのプレッシャーに負けてしまうよりも、“そんなの変えてみせる”というチャレンジ精神を感じられるタイプなので(笑)。つねに挑戦をし続けている気持ちですね。どういう表現で伝えていけば、社会が変わっていって、周りの人たちを励ますことができるのか考えています。私が発言したり、出演することで、目にした方が、自分も自分の心がにっこりするような生き方をしよう、自分らしく生きて幸せになれるんだと思ってもらえることが私の目標です。

――西村さんにとって、LGBTQ当事者だとカミングアウトするのは大変でしたか?

西村:両親に同性愛者だとカミングアウトする時に、いちばん勇気が必要でした。アメリカに留学していた時、カミングアウトしたことで親から捨てられて16歳でメキシコから移住していた男の子にも出会いました。“もしかしたら自分も見捨てられてしまうのではないか……”と不安になりました。でも“これを乗り越えないと自分らしく生きられない”、“自分らしく振る舞えてこそ、自由な人生が始まる”と考えていたので、なにがあっても超えなきゃいけないと覚悟が決まったのです。

――カミングアウト後は、悩みや相談できる相手はいましたか?

西村:ジェンダーに理解のある家族や仲間がいてくれました。でも周りに理解されず、一人ぼっちになってしまう人もいます。周りの人に理解されなくても、あなたは間違っていないという言葉を伝えたいと思います。そういった時にこそ、仏教の教えを引用して「すべての人が自分らしい色で輝くことが美しい」と伝えることが私の僧侶としての役割だとも思っています。

NHK『超多様性トークショー!なれそめ』

同性カップルなど、多様なカップルのなれそめから幸せのあり方を伝えるトーク番組。4月からの新シーズン初回のゲストは西村宏堂さんとフアンさん。

 

【本放送】Eテレ 4月5日(金)22:00~22:29、
【再放送】(再)4月8日(月)24:00~24:29
※本放送から1週間はNHKプラスで見逃し配信

西村宏堂(写真左)1989年生まれ。アーティスト、僧侶。ニューヨークのパーソンズ美術大学卒業。アメリカを拠点にメイクアップーティストとして活動。LGBTQ活動家として、ハーバード大学や国連人口基金本部などで講演を行う。著書に『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』。

「私は、楽しく伝えるということがすごく大事だと考えています。

日本では婚姻に関してまだまだ平等ではないと私は思っています。ビザの関係で外国人のパートナーと日本で一緒に住めない知り合いの同性カップルもいます。こうしたことが問題なんですというネガティブな伝え方よりも、「こんなことで楽しんでいますよ」「こんなうれしいことがありますよ」とポジティブな面が伝われば「応援したいな、私も同じように楽しみたいな」と思ってもらえて、事態が好転していくんじゃないかな。『超多様性トークショー!なれそめ』に出られたこと、とてもうれしく思っています」

フアン・パブロ・レジェス・ディアス(写真右)1997年生まれ。ボゴタ出身。グラフィックデザイナー、クリエイティブディレクター。セルヒオ・アルボレダ大学卒業。コロンビアの広告代理店と出版社で働いた後、デジタルマガジンを立ち上げ、中南米の若者向けに政治や薬物乱用などについて啓発発信を行う。2023年日本に移住。

「『超多様性トークショー!なれそめ』は、私たちがどういった境遇で、どういったバリアを越えてきたのかということを知ってもらえるいい機会だと考え、番組に出演することにしました。

私たちは、長いプロセスを通じて今の状況にありますが、見てくださる皆さんが希望を捨てずに、日本の社会で自分らしく生きられるようになったらなぁと思っています。日本でも近い将来、愛し合う2人が幸せに暮らすことができるという希望を伝えられたらうれしいです」


撮影/水野昭子
取材・文/池守りぜね
構成/藤本容子