苦境にいたからこそ、成長できた

春奈さんの父親の会社はもともと父親の親族のものとして、春奈さんは関わる状態ではありませんでしたが、社長が急逝してしまった結果、経営や相続の関係で危機的な状況に陥っていました。

会社を経営できる人材は親族の中におらず、相続については税金もかなりの額となり非常に複雑であるため、土地の大部分や会社は手放す流れになっていたそう。

「この話を聞いたとき、絶対に手放してはいけない、と反射的に思ったんです。私がどうにかすると言ったとき、親族全員に『絶対に無理だ』『無謀なことをするな』と散々反対されましたが、このときなぜか『これは私がやるしかない』と強く決意したんです」

詳しい話はここでは割愛しますが、結果、春奈さんは何年もかけてほとんど1人で会社を立て直し、土地を整理しました。まったくの無知の状態から知識を貪り、知人友人にアドバイスをもらいながら裁判なども乗りきったのだそうです。

「一筋縄ではいかないこともたくさんありましたし、会社法や相続、弁護士や税理士の選び方など、この間に学ぶことは物凄く多かった。結果として、まとまったお金も手に入れることもできました。

……少しスピリチュアルな話になりますが、代々ご先祖様から受け継がれてきた土地を守るために、私が選ばれたように思うんです。だから強くなるために苦境を経験させられたのかなと。そう思うと、ジャイアンな夫にある意味感謝の気持ちが生まれてきますし、必要な試練だったんだと感じるんです」

 

経験を積み、経済的にも余裕が出た現在、春奈さんはいつでも夫と別れることができる状態となりました。夫の浮気や暴力の証拠も多く残っているため、たとえ夫が反対してもおそらくさほどの労力はかからずに離婚できると予想しているそうです。

「でも……やっぱり気がかりなのは娘のこと。あっという間に思春期に突入した娘はある程度両親の関係もわかっていますが、娘と夫の関係は良好で……。娘のパパは世界にたった1人ですし、両親が揃っている場面では、やはりすごく幸せそうな顔をするんです。

『子どものために母親が犠牲に……』みたいな考えは私も好きではないし、自分のことだけを考えれば、彼と夫婦であるメリットはもうありません。離婚すれば次の恋愛の可能性もあるかもしれないし、楽しい未来があるのも間違いない。でも、本当にそれが私の幸せなのか、私の望みなのかはまだ決めかねています。離婚によって少しでも娘にマイナスがあるなら、それは私にとっても不幸な結果になってしまうから」
 

 


夫のことがどんなに嫌いになっても、親ならば春奈さんのように考える人も少なくないと思います。

また春奈さんが知識と経済力をつけたことで、夫は下手に妻をいじめることができなくなったため、以前ほどストレスはないのだそう。妻が自立を果たしたことで、おそらく夫の支配からは抜け出したような印象があります。

「今の私に対して下手にキレたり暴力を振るえば、家族を失うとか自分の立場が不利になることを察して、夫は仕方なく大人しくしているんだと思います。でも、いじめっ子の本質は変わらないので、相変わらず小さな嫌がらせは絶えませんが。

私は強くなったし、自分が攻撃されるのはもう全然平気です。娘が親の手を離れたら、いつでも離婚できるので。夫が何かしでかしても、ゲームで強敵が現れたような感覚なんです。これを倒せば私はまたレベルアップできる、みたいな」

大変なご経験を、春奈さんは最初から最後まで笑顔で明るく語ってくださいました。これほど夫に酷い扱いを受けることも珍しいと思いますが、人は苦境でも成長できるということがよくわかりました。

とはいえ、心配なのは夫の暴力で、耐えるのが必ずしも正解ではないと思います。春奈さんの場合は警察沙汰となるような大きな暴力は一度だけだったそうですが、とはいえ一度でも手を上げるような人は要注意。娘さんの状況も考慮しながら、春奈さんが明るく平和な生活を掴めるよう、心から応援しています。


写真/Shutterstock
構成/山本理沙
 

 

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