本誌初登場となる人気詩人・最果タヒさん。文学ジャンルを超えて活躍中の「最果さんの煌めきに憧れています」と語る美容エディター松本千登世さんとの言葉をめぐる対談が実現しました。第1回目のテーマは心に溜めこんでしまう“毒”について。相手も自分も必要以上に傷つかないよう上手に吐き出せたら……、「それは違うんじゃない?」と物申せたら……。違和感は、その場ですぐに表現するのが難しく、放っておくと澱のように増えていく感情の1つではないでしょうか? 言葉のプロはどう対処しているのでしょうか。

 


毒を吐く=正直でいること?


松本千登世さん(以下松本):私、最初はタヒさんのエッセイのファンになりました。それから詩を読んでみたら、まるでアートを見ているような贅沢な感覚になって。それはもうジェラシーを感じてしまうほどの言葉。軽やかに読めるエッセイの魅力とはまた違って、詩は、自分を無にしてきちんと絵を見にいくような、心を持ってその場に赴くような不思議な感覚です。

最果タヒさん(以下最果):ありがとうございます。アートは私自身も大好きです! 詩の展示をする機会が何度かありましたので、「詩を鑑賞する場」を作るとしたらどんな形がいいか考えることも多くありました。

 


松本:実は、タヒさんの詩が持っている“毒”にとりわけ惹かれています。

最果:え、本当ですか(笑)。

最果さんの詩集『天国と、とてつもない暇』(小学館)「森の詩」より。『恋できみが死なない理由』(河出書房新社)では「必ずきみが愛さなくちゃいけない人なんて、いない。と伝えてくれる人はあまりいない。(中略)愛してくれた人のことを愛さなくてはならないとしたら地獄だ、ということを正直に叫べるようにこの世界はできていますか」など、包括する意味が広いフレーズについて鋭い示唆もたくさん。


ーー松本さんは美容業界で活躍中のエディターであり、ビューティエッセイスト。豊かさや美しさに焦点を当てる感覚を研ぎ澄ませてきました。

松本:美容のお仕事は大好きですし、自分や世界の良いところに光を当てる視点に魅力を感じていました。でも、今は年齢のせいもあるのかな? 本当は毒を持っているのに、まるで自分には最初からそんな感情や側面はゼロのように振る舞っている、そんな不自然な感じがしてきています。毒のない面にばかり光を当ててきたなぁと。

最果:でも、美しいと感じるのは、松本さん自身の中にやっぱり美しさがあるからだと思いますよ。

松本:毒を出さないことで、かつては発酵していいものになると信じていたけど、最近は出した方がいいなと思うようになりました。発酵して素敵なものに昇華するのではなく、腐敗していくように感じることもあるんです。いいことばかりじゃない、ってことを出して、それも楽しんでいった方がいいなと思っていたところに、タヒさんのエッセイや詩に出会ってしまって衝撃! 毒の出し方について、私は初心者かもしれない(笑)。

最果:私自身の感覚では、毒を吐くというより、素でいることを大事にしています。思っていることだけ書かないと、「守りに入ったな」とすぐに読者の方は気づいてしまうし、私も書いていて楽しくないです。心を開きながら、周りの目は気にしない。空気は読まない。そんな感じでしょうか。

 

松本:かっこいい!